第121話

「魔法競技大会があるなら、武芸大会もあっていいと思うんだがな~」

「マーク、それ去年も言ってたぞ」

「そうだっけ?でも二人もそう思うだろ?」

「その質問も去年された。この国が魔法国家でなければ、その様な大会も開かれただろうな」

「だけどよ。周辺国、同盟国でも敵対国でも武芸大会をやってるんだぞ。それも、魔法競技大会とは別にだぜ。それだけこの国は、武芸に関して周辺国から遅れてるんだよ」

「それに関しては同意する。だが俺たちがここで熱い議論を繰り広げた所で、どうしようもないものはどうしようもない。上層部の連中が考えを変えない限り、この国で武芸大会が開かれる事はないだろうな。俺たちが天寿を全うするくらい先の未来となれば、もしかしたら開催されているかもしれないがな」

「……はぁ~、そうなっちまうよな~」


 去年とほぼ変わらない流れの会話。マークはジャンの言葉に、大きくため息を吐きながら納得する。俺としても武芸大会が開かれたらいいなとは思うものの、アイオリス王国の成り立ちから現状までを考えるとな。ジャンの言う様に、俺たちが爺さんになるくらい未來ならば、武芸大会も開かれるくらいこの国が変わっている可能性もある。


「大会開催中はマリーと一緒に魔法競技大会を楽しむんだが、二人はどうなんだ?」

「俺もソレーヌと一緒に観客として会場に向かうかな」

「ウォルターは?」

「俺か?去年と同様に、一人で大会を楽しむかな。魔法競技大会は権威ある大会であると同時に、大きな祭りの一つだからな。屋台を巡って飲み食いしながら、魔法使い同士の戦いを楽しむさ」

「ウォルター…………」

「…………涙を拭けよ」

「涙じゃねぇ、これは雨だ」

「「今日は稀に見るに快晴だよ」」

「…………」


 目尻に浮かぶ透明な水滴をそっとぬぐい去る。決して、お祭りをデートの様に楽しむ二人を見て悲しくなったのではない。ないったらないのだ。前世の時はアニメや漫画、動画配信などを見てその悲しみを癒していた。だがこの世界にはそんなものはない。

 去年の大会開催中は、悲しみに暮れる同志たちと共に屋台の料理を飲み食いし、刻まれた大きな傷をなめ合い慰め合った。そうでもしなければ、俺たち独り身はあの恋人や夫婦が放つ愛の空間に耐えられなかった。今年も同志たちと共に屋台の料理を楽しみながら、孤独の悲しみや苦しみを乗り越えるしかない。


「あの様子じゃ、彼女たちに誘われるなんて微塵も思ってないな」

「まあ、ウォルターだしな。未だに彼女たちの気持ちに気付いていないんだし、誘われるなんて最初から頭の中にないんじゃないか」

「確かに、それはありえるな。今週末も彼女たちと会うらしいから、その時に誘われるんじゃないか?」

「その時は驚きすぎて固まるんじゃないか?」

「可能性は大いにあるな。まあ何にしても、今年の魔法競技大会はウォルターにとって良い思い出になるだろ」

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