第118話
「土産の礼に関しては、私たちの方からベイルトン辺境伯夫妻に伝えておく」
「あんなに良い品々を贈り物としてくれたのだから、私たちもカノッサ公爵領自慢のの品々を返させていただきます」
「私もカノッサ公爵家の者として、改めてお礼を申し上げます。それから、いただいた品々に関しては全て大切に使わせていただきます。ご安心くださいね」
「いえ、使わないなら使わないでだいじょ……」
「「絶対に使わせていただきます」」
「あ、はい。分かりました。そ、それじゃあ、また次の週末にお会いしましょう。帰ろうか、ジャック爺」
「うむ、そうじゃの。また何かあれば、ウォルターの家に人を送ってくれ。何かしらの用事がなければ、大抵はあそこにいるのでな」
「はい、分かっております」
「皆、また会おう」
『はい』
色々とあった久々の顔合わせだった。何より衝撃的だったのは、魔物に対する認識の違いだ。まさか、寡黙な蜘蛛の糸やその糸から作られた生地、そしてその生地で作られた服が、王都ではもの凄く高値で取引されているとはな。
「何を考えておるんじゃ?」
今日一番の衝撃の事実について考え込んでいたら、それに気付いたジャック爺が俺に問いかけてくる。
「いやね。やっぱりあの蜘蛛の件は、俺にとっては相当な衝撃だったんだよ」
「ああ、寡黙な蜘蛛の事じゃな。儂も王都で初めてそれを知った時、何かの間違いではないのかと何度も確認したのう」
「ジャック爺は、一体なんでその事を知ったの?」
「王城勤めとなって少し経った頃じゃったかな。ちょっとした研究の為に、寡黙な蜘蛛の糸が必要になっての。まだその頃は、ベイルトンにいた頃の感覚が残っていての。王都で知り合った商人の友人に、気軽に調達出来るか頼んでみたんじゃ。そしたらの……」
「もしかして、そんな高い物をみたいな事を?」
「そうじゃ。寡黙な蜘蛛の糸なんて貴重なもの、王都にいる各貴族や王族の御用商人たちでさえ、滅多に手に入れられる物ではないと言われたの」
「それじゃあ、結局その研究は中止?寡黙な蜘蛛の糸が必要だったんでしょ?」
「ウォルターと同じ様に色々と衝撃を受けつつも、儂が自分で魔境まで赴いて、寡黙な蜘蛛の糸を手に入れてきたんじゃ。その糸を使って研究を進め、無事に成功する事が出来たの。その一件から商人の友人に色々と話を聞いて、王都での魔物の認識を知っていったのじゃ」
「なる程」
その時の事を思い出したのか、ジャック爺は王都で知り合い友人となった商人との思い出話や、他の王都の友人たちとの思い出話を始めた。
魔境への同行の件で精鋭部隊が毎日の様に家を訪ねて来ていたり、王族が主催した帰還パーティーの一件などから、ジャック爺はここ最近不機嫌な日が多かった。しかし、王都の友人たちのとの思い出話を語るジャック爺の表情は、久々に見る心からの笑顔を浮かべている。
王都で友人となってから数十年、話題は尽きる事なく次々と出てくる。ほっこりする様な話から真剣に喧嘩した話まで、ジャック爺が過ごしてきた友人たちとの人生を、俺も笑顔を浮かべて聞いていた。そして、思い出話で上機嫌になったジャック爺が、その友人たちに今度会わせてくれると言うので、その時を楽しみに待っている事にしよう。
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