第117話

 アルベルト殿下の側近たち、その婚約者たちとの協力関係の締結。これは現状や今後の事を見据えたとして、とても重要な一手になると個人的には思う。

 だが懸念しておかなければならないのは、婚約者たちの感情が一体どのラインにあるのかというものだ。好きとも嫌いともいえない中立に近いラインと、完全に嫌いといったラインにまで落ちているのと、相手に何も思う事は無い最低レベルの無関心といったラインでは、協力関係における協力の度合いが変わってくると思っている。

 好きの反対は無関心と言われている。婚約者たちの現在の感情が、側近たちに対して無関心と言えるまでの感情になっているならいい。だが中立や中立に近い感情、ほんの少しでも好意が残ってしまっているのなら、婚約者たち個人は警戒せざるを得ない。

 人間の心は複雑だ。最初は嫌いだと思っていた相手でも、何かのきっかけ一つで一気に好意を抱く事もある。婚約者たちにそれがないとも言い切れない。もし言い切れるとするならば、無関心のラインまで感情が落ちきっていると確実に分かった時だけだ。


「側近たちの婚約者たちは、全員魔法学院の?」

「ええ、全員同い年の同級生ですね」

「私たちの世代は、ここ数年で最も出生率が多かった世代だそうです。その事も要因の一つとして、私たちの世代は同い年の婚約者にする事が、各貴族家で多いと聞きます」

「下手に歳が離れてたりすると、どちらかが気を遣ったり、年下が気を遣う事が多いとも聞くからね。その点私たちは……」

「そうね。私たちは運が良かったんでしょうね」

「それに私たちの世代で生まれた子たちには、属性魔法への適性が高い子たちが多く生まれた事も、同い年での婚約が多い理由の一つですね」

「へぇ~、初めて聞きました。じゃあ、ジャンやマークの婚約者であるマリー嬢やソレーヌ嬢も?」


 俺はジャンとマークの二人に聞いてみる。マリー嬢やソレーヌ嬢が同い年だというのは聞いているが、婚約に至った経緯などは聞いたことがなかった。あれだけ普段マリー嬢の事を語るジャンも、普段の様子を語るだけであって、どういった感じで婚約したのかなどは語る事はなかったからな。


「ああ、そうだな。親からもそう言われた事がある。まあ今は、そんな事が関係ないくらいに愛し合っているがな」

「俺とソレーヌの場合は、ちょっと違うかな。俺たちの場合は幼馴染で仲が良かった関係もあって、親同士が俺たちの婚約に乗り気だったんた。だから、俺たちの場合は例外に近いかな」

「なる程な。やっぱりそういう事が影響されてるって事か。……俺は属性魔法の適性が低い。俺に婚約者など、夢のまた夢なのか?今世もまた、幸せな家族を見ては幸せになれと呪う人生が待っているのか」


 走馬灯の様に、家族連れを見ては羨んでいた前世の記憶が流れていく。だが今世は兄貴たちもいるし、孫の顔を見せられないといった事にはならないだろう。そう考えると、結婚出来なくてもいいかもしれないと思えてくるな。

 そんな事を考えていたウォルターを、八つの獲物を狙う肉食獣の瞳が見つめている。その八つの瞳に気付けなかったのは、この場ではウォルターだけ。ジャンとマークは呆れとあわれみの混ざった視線で、何か考え込んでいるウォルターを見る。目の前にいる男は、何時になったら勇ましき女傑たちの好意に気付くのだろうかと。

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