第115話

 机に並べられた服の数々を前に、女性陣たちはもの凄く白熱して語り合っている。聞こえてくる会話の内容としては、この服はあの流れをんだ服じゃないかとか、あの服のデザインは今の流行を取り入れているとか、全くもって会話についていけない、入っていけない様なものばかりだ。なので、品評会が終わるのを大人しく待つ事にする。

 転生者であるイザベラ嬢やクララ嬢も、こうして見ていると普通の女性と変わらないな。精神年齢は、マルグリット嬢やナタリー嬢よりも上なのだがな。そう思った瞬間、イザベラ嬢とクララ嬢の視線がこちらを向き、鋭すぎる眼光を突き刺してくる。


「ひっ!!」


 イザベラ嬢もクララ嬢も、心からの情けない悲鳴に満足したのか、スッと素早く視線を戻して品評会に戻る。


(女性に年齢の話は厳禁。女性を怒らせない初歩の初歩だったのに失敗した)


 だがまあ、睨みつけられただけで済んでよかった。これが母さんや叔母さんたちだったなら、睨みつけからの言葉での精神攻撃から、頭ぶん殴られる物理攻撃までの一連の流れでお仕置きされるからな。

 しかも、母さんも叔母さんも頭ぶん殴る時には拳に魔力を込めて強化してくるから、一撃一撃がもの凄く痛いんだよな。それに、母さんたちもジャック爺に負けず劣らず優秀な魔法使いだから、下手に魔力を纏わせたり魔力障壁を張ったとしても、それをぶち抜いて拳を叩き込んでくるんだ。何とかして防げないかと色々と試してみた事もあるが、ものの見事に全て効果なしで終わった。そして、防ごうとしたことがバレて追加でもう一発とかもあったな~。

 そんな昔の恐怖体験を思い出していたら、アンナ公爵夫人がこちらに近づいてきた。どうやら、品評会は一旦終了となった様だ。それにしても、女性陣の肌艶が良くなっている様に見えるのは気のせいだろうか?女性陣皆して、桃やオレンジを食べた後の様な肌艶をしている様に感じる。まさかだが、良い生地で作られた服を見てそうなったのだろうか?


「ウォルターさん、次は小物や食器なんかを見せてもらえるかしら」

「分かりました。服の方はどうします?一旦こちらに仕舞っておきますか?」

「服はまだまだあるのよね?」

「そうですね。今テーブルに並べている服は全体の一部に過ぎません」

「……なら、仕舞っておいてちょうだい」

「分かりました」

「それから、小物の方の割合を多くしてもらえるかしら。食器の方は一割か二割程でいいから」

「了解です」


 俺はテーブルの上に出していった服の数々を、丁寧にバックパックの中に仕舞っていく。その際周囲を女性陣に囲まれて、服を手荒に扱っていないかを厳しくチェックされた。先程のイザベラ嬢とクララ嬢の鋭い眼光が、あれでも優しいものだったと思える程の、威圧感たっぷりの視線だった。それこそ本当に、両目がピカッと光っているように見えたくらいだ。

 服を完全に仕舞い終わると、一旦威圧感が収まってくれた。ホッと息を吐き一安心する。そのまま安心したまま、小物や食器類を出していく。割合としては、アンナ公爵夫人に言われた通りに小物八割・食器二割でテーブルに出していく。俺の周囲を囲んでいた女性陣は、いつの間にかテーブルの直ぐ傍まで近寄ってきており、出されていくものをジッと観察している。特に、小物を中心的に見ている様だ。

 女性陣向けに持たされたお土産の小物や食器は、ベイルトンの女性職人たちが総力を結集させて作り出した、女性目線で考えたデザインのものばかりだ。これらの女性向けのシリーズはベイルトン以外の領地の女性陣にも好評の様で、商人たちが定期的にベイルトンに訪れて、結構な量を仕入れていく程だ。

 そしてそんな素敵な作品たちは、この場にいる女性たちの心もしっかりと射止めた様だ。その証拠に、テーブルの上に並べ切ってから数分が経っても、女性陣は一言も喋る事ないままに小物や食器を眺めている。服同様に、こちらの方も気に入ってくれた様だ。

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