第114話
女性陣が、俺の背中に視線を突き刺したままの状態で、ゆっくりと動き出す。そして、綿密な連携でもって俺の周囲を囲み始めた。肉食獣が獲物を逃がさない様に、徐々に徐々に範囲を狭めてくる。
「ウォルターさん」
「は、はい。何でしょうか?」
問いかけそのものは普通なのだが、言葉に込められた圧や迫力が尋常ではない。それに、問いかけてきたアンナ公爵夫人以外の女性陣が放つ威圧感も、同じくらい尋常ではない。
「賢者様が仰っていた魔法は、ウォルターさんが取り出そうとしてくれるお土産にもかけられていますか?」
アンナ公爵夫人が言葉を発する事に、尋常ではない威圧感がさらに強くなっていく。俺が質問に答えるのを、アンナ公爵夫人は真剣な表情と雰囲気で待ち、イザベラ嬢たちも俺の一言一句を聞き逃さない様に集中している。そんな女性陣にこちらも緊張しながら、ゆっくりと口を開いて質問に答える。
「実際に見てみないと断言は出来ませんが、皆さんの服にも魔法はかけられていると思います。それから……」
「それから!?まだ何か別の魔法が!?」
「い、いえ、そうではなくて……。公爵様には武器や防具などもお土産として持たされましたけど、恐らくアンナ様やイザベラ嬢たちのお土産に、それらは含まれていないと思います。ですので公爵様よりも、服や小物、食器の量が多くなっていると思います」
『!!』
「親父や母さんたちも、アンナ様やイザベラ嬢たちが優秀な魔法使いである事は知っているはずなんですが。……寡黙な蜘蛛の糸から出来た生地で作られた服でも、魔力伝導率なんかは充分高いです。高いですけど、もっと魔法使い向けの良い服は沢山ありますし、杖に関しても色々と用意出来たはずなんですよ。なんで、普段使いの服だけに絞ったんだろう?」
(ベイルトン夫人、よくやってくれました!!)
(失礼ですけど、ウォルターさんにお任せしていたらどうなっていたか)
(話を聞いた感じだと、普段着や余所行きの服よりも、杖やローブなどの防具類を選んでいたでしょうね)
何やら失礼な視線を女性陣から感じるが、反論する事なく口を閉じておく。今世での幾多の経験から理解しているが、こういった時にも下手に反論してしまうと、何倍にも返されて精神的に凹まされるのだ。沈黙は金、雄弁は銀だ。
「皆さん、取り出す準備が完了しました。まずは、アンナ様の服から取り出していきたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
「!!…………ええ、お願いするわ」
「では、このテーブルの上に出せるだけ出していきます。それも宜しいですか?」
「構わないわ」
「それじゃあ、始めますね」
俺は男で、見ただけで女性ものの良し悪しが分かる訳ではない。だがテーブルに並べられていく服の数々を見る、アンナ公爵夫人やイザベラ嬢たちの反応から、どれこれもが良い品であるという事は伝わってくる。ベイルトンの服飾職人たちの腕が認められている様で、俺としてもとても嬉しくなる。
しかし、何故杖やローブなどの防具類を、お土産に持たせなかったんだろう?それだけが分からない。だがアンナ公爵夫人はもの凄く喜んでいるし、イザベラ嬢たちも、自分たちの服はどんなものなのだろうと楽しみにしている。なので、母さんたちの考えは正しかったんだろう。
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