第106話
大体一週間ぶりくらいにイザベラ嬢たちと顔を合わせるが、皆変わりがない様に見える。まあ一週間程度じゃ、特に何か変わる事もないか。
「皆さん、一週間ぶりぐらいですね。お元気でしたか?」
「はい、体調面などに関しては、皆変わりありませんでしたよ」
「ウォルターさんが不在の間、賢者様に魔法に関して様々な事を学ばせてもらいました」
「賢者様は、私たちにも色々と教えてくださりました」
「そのお蔭で、行き詰っていた部分を解決する事が出来ましたからね。本当に、賢者様には感謝してもしきれないです」
「ジャック爺からは、何処まで教わったんですか?」
「何処までとは?」
「応用魔法とか、改良魔法とかですけど」
「いえ、私たちは基礎の基礎程度しか教わっていませんよ」
「そうなんですか?せっかく優秀な魔法使いたちがいるのに、基礎の段階で止めてるなんて。応用魔法の段階まで教えてると思ってましたよ」
ジャック爺がイザベラ嬢たちを目に掛けているのを知ってはいたし、魔法のみならず、実際の戦場に立つ時の心得などを教えているのも知っていた。イザベラ嬢たちが優秀な魔法使いである事は疑いようもないので、既に応用魔法を教える段階まで進んでいると思っていた。
「皆優秀である事は間違いない。それは儂も保証する。だが、まだ早い。今は、応用魔法を完璧に扱えるようになるための、基礎固めを優先しておる所じゃ」
「ジャック爺。それにジャンとマークも。でもジャック爺、基礎固めを優先する事は同意するけど、どのくらいの期間必要だと考えてるの?」
「本格的に基礎固めを始めたのが、ウォルターが魔境へ向かった前後の辺りからじゃからの。そこから現状のお嬢さんたちの技量を考えると、後数日はこのまま基礎を固める事を優先したいの」
「じゃあ、それが終わったら?」
「応用魔法を教える段階に進むことになるの」
そう断言するジャック爺に、イザベラ嬢たちは素直に大きな喜びを示す。アイオリス王国最高の魔法使いから、一流の魔法使いと見られる要素の一つでもある、応用魔法を手解きしてもらえるとなれば、皆貴族の子女としての仮面を忘れて喜びもするか。
(俺は、属性魔法への適性が低かったからな。魔法使いとして、ジャック爺の後を継ぐ事は出来ない。だが、イザベラ嬢たちならば。魔法使いとしての豊かな才能と、それに
自分が叶えてあげられぬ思いを、イザベラ嬢たちに勝手に託しているというのは重々承知している。だがそれでも、『賢者』とまで称されたジャック・デュバルという男が研鑽してきたものを、後世に伝え残してあげたいと強く思った。簡単に言ってしまえば、俺の勝手な祖父孝行だ。
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