第107話

「それよりウォルター、イザベラお嬢さんたちにお土産があるんじゃろ?もう渡したのか?」

「おっと、そうだった。皆さんにベイルトンのお土産があるんですよ」


 俺はそう言って、バックパックから分類ごとに纏めたお土産の幾つかを取り出して、テーブルの上に乗せていく。そして最後に、母さんから渡された手紙をイザベラ嬢に手渡す。


「これは?」

「俺の母からの手紙です」

「「「「!?」」」」


 母からの手紙だと告げると、イザベラ嬢のみならず、クララ嬢たちまで何故か驚いている。妙な緊張感が高まり、張り詰めた空気が漂う。そして、イザベラ嬢が真剣な表情をして、封を開けて手紙を呼んでいく。そしてそれを、クララ嬢たちも真剣な表情で見つめている。


(手紙を読むのに、どうしてこんな真剣な雰囲気になってるんだ?)


 色々と疑問に思いながらも、あえて口にする事はせずに、イザベラ嬢が手紙を読み終わるのを待つ。そして手紙を読み始めて二・三分後、イザベラ嬢が手紙を読み終わった様で、ふぅ~と息を吐く。そのままクララ嬢たちの方を向いて、ゆっくりと一度頷く。何かの合図なのかは分からないが、クララ嬢たちには伝わっているみたいで、クララ嬢たちもイザベラ嬢に頷き返す。


「イザベラ嬢、手紙には何と?」

「――――」

「ひっ…………いえ、何でもありません。気にしないでください」


 イザベラ嬢に、鋭い眼光で睨みつけられてしまった。そのあまりの恐ろしさに、情けない悲鳴が漏れ出てしまった。やはり魔境の魔物たちよりも、デキる女性が静かに怒っている姿の方が何倍も恐ろしい。昔の記憶と共に、母さんや叔母さんたちが修羅となった時の恐怖と、親父や叔父さんの情けない悲鳴が蘇ってくる。


「お母様、ウォルターさんのお母様である、ベイルトン辺境伯夫人からの手紙を読ませていただきました。お母様宛てにも送ったと、手紙には書いてありましたけれど……」

「ええ、私もウォルターさんから手紙を受け取りました。内容も既に把握済みです」

「では……」

「辺境伯も夫人も大賛成の様だし、私たちも予定通りに進めていきましょう。幸いにも、まだ周囲にも気付かれていないみたいですからね」

「分かりました。皆もそれでいいわね?」

「ええ、構わないわ」

「はい、構いません」

「私も、……覚悟が決まりました」


 俺の知らない女性たちの壮大な物語が、目の前で繰り広げられている。しかし、ジャック爺もジャンもマークも、この物語の内容を知っている様だ。ジャック爺はイザベラ嬢たちを微笑ましく見ているし、ジャンやマークは俺に呆れの感情の眼差しを向けてくる。二人の視線にイラっとはくるが、こういう時は昔から俺が悪い時なので、反論せず大人しくしておく。


(それにしても、親父や母さんは何を大賛成したのだろう?)

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