第105話
「初めまして。ウォルターの友人で、騎士学院の同級生のジャン・コルネと申します」
「同じく、ウォルターの友人で同級生の、マーク・オランドと申します」
「おお、そうかそうか。ウォルターの友人か。儂はジャック・デュバルと言う名の、老いた魔法使いじゃ。お主らには、賢者と言った方が分かりやすいかの」
俺の友人だと紹介したジャンとマーク相手に、ジャック爺はニコニコと好々爺の笑顔を浮かべて、自己紹介を返している。そしてジャンとマークは、自己紹介を返してもらっただけでもの凄く感激している。そういった光景を見ると、やはりジャック爺は、アイオリス王国を代表する顔の一つであったのだとしみじみ感じる。
ジャック爺はニコニコと笑顔を浮かべたまま、右手をジャンの方へと向けて伸ばす。どうやら、ジャンとマークのそれぞれと、握手をしようと右手を差し伸ばした様だ。それを見たジャンもマークの二人は、今にも感激で泣きそうになっている。
ジャンは、プルプルと感激と緊張で右手を震わせながら差し伸ばし、ジャック爺と握手を交わす。ジャック爺はそのまま数秒握手を交わした後に、今度はマークへと同じ様に右手を差し伸ばす。マークも、ジャンと同じく右手を震わせながら右手を差し伸ばし、ジャック爺と数秒間握手を交わす。
握手を交わし終えた二人は、いきなり左頬を左手で抓る。どうやら自己紹介から握手までの流れが、本当に現実なのか、夢ではないのかと確認したかった様だ。そして、本当に現実に起こった事だと再認識すると、目尻に薄っすらと涙を浮かべた。俺がそこまでなのかと二人を見ていると、ジャンもマークも恥ずかしくなったのか、そっと目尻に浮かんだ涙を拭う。その様子を、カノッサ公爵夫妻が微笑ましく見ていた。
「二人とも、今日はマリー嬢とソレーヌ嬢は連れてこなかったのか?」
「うん?ウォルター、マリーとソレーヌとは誰じゃ?」
「ジャンとマークの婚約者の女性だよ。マリー嬢がジャンの、ソレーヌ嬢がマークのお相手だよ。二人とも魔法学院に通っていて、イザベラ嬢たちの同級生なんだよ」
「そうじゃったか。ジャンもマークも、何故マリーお嬢さんとソレーヌお嬢さんを連れてこなかったんじゃ?」
「いくら憧れの賢者様とはいえ、初対面でいきなり婚約者を連れて会いにくるのは、流石に失礼だと私たちも思いまして」
「……ええっと、逆によかったんでしょうか?」
「構わん、構わん。次に儂と会う時には、マリーお嬢さんとソレーヌお嬢さんも連れてきなさい。子供に遠慮させてしまうのは、儂としても本意ではないからの。二人ともよいな」
「「はい、分かりました。ありがとうございます」」
ジャンとマークが頭を下げると、ジャック爺が二人の頭を、左右の手でポンポンと軽く撫でる。その姿は、小さかった頃に俺に見せてくれていた姿と同じだ。その光景から感じる、人としての器の大きさや人生の大先輩としての振舞いから、『賢者』ジャック・デュバルとしての姿が垣間見えた。将来は、こんなお爺さんになりたいものだ。
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