第102話

 カノッサ公爵家の屋敷の玄関先で、カノッサ公爵夫妻とジャック爺に帰還の挨拶を終えて、綺麗な庭園の中で報告会兼お茶会を始めた。

 カノッサ公爵夫妻は、魔境という地獄から戻ってきた俺があまりにもいつも通りであったため、初めの内は非常に戸惑っていた。だがジャック爺に、魔境で生き延びる事が出来る者は皆こんなもんじゃと言われ、一応の納得を見せて普段通りの冷静沈着な夫妻に戻った。色々とせぬ所はあるものの、カノッサ公爵夫妻がそれで落ち着いてしまったので、何かを言う事なく口を閉じておく事にした。


「それで早速じゃが、ベイルトンで、魔境でどの様な事があったか教えてくれるかの」

「それじゃあ、王都を発って直ぐの辺りから、報告させていただきますね。俺と精鋭部隊は…………」


 カノッサ公爵夫妻とジャック爺に、俺と精鋭部隊が顔合わせをし、王都を発ってからの話を聞かせていく。ジャック爺の方は、精鋭部隊が俺に対して放った言葉や態度に、そうじゃろうなという冷めた感想を抱き、カノッサ公爵夫妻の方は、仮にも自分たちが後ろ盾となった者に対して、その様な態度を取るとは思ってもいなかった様で、驚きと共に怒りを抱いていた。まあその怒りも、魔境での精鋭部隊の様子を語っていく事で、溜飲が下がったみたいだけどな。

 俺の語る魔境での出来事の中で、カノッサ公爵夫妻とジャック爺の三人が特に興味を持ったのが、魔境の魔物との戦闘に関してだ。ジャック爺は、純粋にどんな魔物が襲ってきたのかに興味を持ち、色々と魔物たちの特徴を聞いてきた。そしてカノッサ公爵夫妻の方は、魔境での最後の場面で魔物たちが魔法を使ってきた事や、特殊な能力を持っているという事に興味を示していた。


「聞けば聞く程、魔境の魔物の強大さが伝わってくるな」

「でも、その魔物たちは魔境から出てこないの?」

「魔境の魔物たちは、何故かは分かってはおらんが、あまり外に出たがらないんじゃよ」

「ですが、例外もあります。極度の飢えに陥った個体が現れたり、頭一つ抜け出た個体が生まれる事で序列が変わるなどが起こると、魔境から魔物が出てくる事もあります」

「一体ならまだしも、二体も三体も魔境から出てこられると、流石に骨が折れるわい」

「まあね。ただでさえ生まれながらの強者なのに、厄介な能力持ちとなると、倒すのが面倒になるからね」

「面倒で済む問題なのか?」

「ベイルトンの麒麟児や、辺境の守護者と呼ばれる訳だわ。聞いた情報だけでも脅威度の高い魔物たちを、面倒の一言で済ませられる実力を持つからこそ、ベイルトンの民たちに認められているという事ね。……やっぱり、私の目に狂いはなかったわね。既成事実でもなんでも利用して、イザベラたちに包囲網を作らせて、逃がさない様に言っておかないと」

「そこまでしなくとも…………」

「…………儂は、アンナ夫人の意見に賛成じゃ。ガチガチに逃がさんようにしておかんと、変な女に横から掻っ攫われかねん。なんせ、本人は女性と縁がないと本気で思っておるからの。くだらん女に勢いで押されたら、そのままなし崩しで………というのもあり得るぞ」


 何故か、三人から呆れの感情が込められた目で見られている。解せぬ。解せぬが、ここで口を開くとダメだと、直感が危険を訴えてくる。なので、六つの目から呆れの視線を、黙って受け入れてやり過ごした。

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