第83話

 先日、ジャック爺がこちらの味方になってくれると言ってくれたので、早速頼らせてもらう事にした。職を辞したとはいえ、現在もアイオリス王国最高の魔法使いである事には間違いない。なので、ジャック爺の得意分野で輝いてもらおうと思った。


「初めまして、お嬢さん方。儂の名はジャック・デュバル。見ての通り魔法使いじゃ」

「「「「「……………え?」」」」」


 カノッサ公爵家の屋敷の両扉前で、アンナ公爵夫人とイザベラ嬢たち五人が、驚いた様子で固まってしまっている。

 ジャック爺からは、王城に引きこもって研究しており、余り表に出てくるような事はなかったと聞いている。だがイザベラ嬢たちの反応を見るに、ジャック爺がどんな姿をしているのかは知らなくても、ジャック・デュバルの名は知っていた様だ。隣に立つジャック爺からは、最近の若い者は儂の名を知らん者が多い、と愚痴られていたんだがな。

 もしかしてイザベル嬢たちが勤勉なだけで、本当に最近の子たちはジャック爺の名前も知らないのかもしれない。


「今日はウォルターに頼まれて、お嬢さん方に魔法についての講義をしにきたんじゃ」

「「「「「…………え?」」」」」


 今度は驚いて固まるだけでなく、ギギギッと錆びついたロボットの様な動きで首を動かし、俺の事をジッと見てくる。俺は、そんな驚き固まるイザベラ嬢たちに苦笑を向ける。まあ、イザベラ嬢たちからしてみたら、有名人が突然目の前に現れたんだしな。それも、魔法使いの中でもトップクラスの有名人だからな。

 五人の中で最初に我に帰れたのは、やはりアンナ公爵夫人だった。それでも多少声が震え、緊張を隠せていない様ではあった。


「あ、あの……本当にジャック・デュバル様ですか?」

「うむ、儂はジャック・デュバルじゃ。まあ、言葉だけでは信じられんのも無理はないか。王城勤めである証は、既に返却してしまったしな。……ああ、あれがあったの」


 ジャック爺はそう言って、懐から褒章のメダルを取り出した。大きさは掌大くらいで、純金製の厚みのあるメダルだ。


(あれは確か……)

「それは、王から直接授与される褒章の中でも、最高位に位置する鷲獅子褒章!!」

(そうそう、そんな名前だったはずだ。子供の頃に、ジャック爺に散々自慢された奴だな。まあジャック爺の自慢ポイントが、純金である事と精巧なデザインであった事から、俺も嫌味に感じる事はなかったな)


 この世界でも、金の価値は相応に高い。そんな価値の高いな金をたった一つの褒章の為に使い、精巧なデザインまで刻まれている。ジャック爺は、王から直接授与された事よりも、それらの事に関して喜んでいた事を思い出す。

 鷲獅子褒章を目にしたアンナ公爵夫人とイザベル嬢たちは、本当に本物の『賢者』ジャック・デュバルだと認識した瞬間、絶句したまま完全に固まってしまった。

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