第76話
「ポンセロ殿がどこまで聞き及んでいるのか分かりませんが、私の実家があるベイルトン辺境伯家・辺境伯領において、‟若返りの桃”を栽培している訳ではありません」
「ではどうやって、どの様にして‟若返りの桃”を手に入れたのですか?」
ポンセロは、今まで面会してきた商人たちと全く同じ事を言ってきた。それにどいつもこいつも、クソガキが交渉の真似事で隠し立てをせず、さっさと教えろという不満が隠しきれていない。
普段の商人たちなら、こんな事で簡単に感情を示す事はないのだろう。だが今回は、桃という貴重で希少な果物に関しての情報を得るための、とても重要な面会だ。商人たちは、莫大な利益と商人としての格を上げるためにも、俺から桃のある場所を聞き出したいのだろう。
「今まで面会されてきた方々にもハッキリと申しましたが、‟若返りの桃”とベイルトン辺境伯家に直接の繋がりはありません。……‟若返りの桃”があるのは、魔境の森の中です。その中にある木々に、‟若返りの桃”が生っています」
「な!?魔境ですか。なる程、確かにあの場所になら、自生していても不思議ではない。……この情報を急いでカルフォン公爵に伝えなければな。……それで、具体的に魔境のどの辺りに自生しているのか判明しているのですか?」
「その辺は、ご自分たちで探してください」
「その様な事を言わず、ここまで教えてくれたのなら…………」
「そこまで教える義理も義務も、カルフォン公爵家にもポンセロ殿にもありません」
「…………後悔しても知らんぞ」
「商人というのは皆そうなんですかね?同じ様に居場所を知りたがり、聞き出せないなら脅しですか?まあ実際に魔境に向かえば、これらの情報がどれだけの価値のあるものなのかは、貴方方商人も実感するでしょうけどね。…………お話は以上ですか?私も学生の身なので、これ以上のお時間は……」
「分かりました。貴重なお時間を割いていただき、非常に助かりました。…………私に、カルフォン公爵家にその様な態度をとった事、桃を見つけ出した後に心底後悔させてやる。……覚えておけ!!」
「ええ、しっかりと覚えておきます。ですので、桃をちゃんと見つけて、持ち帰ってきてくださいね」
「…………失礼する!!」
怒り心頭の様子で、ポンセロが面会室から去っていく。扉を壊すかのように勢いよく閉めて、その怒りの度合いがよく伝わってくる。だがまあ、海千山千の商人が十七歳に反抗されたくらいで、あそこまで強い言葉や権力を盾にした脅しを仕掛けてくるとはな。桃の入手に関して、余程カルフォン公爵家からせっつかれているんだろうな。
(もしくは、その裏にいる王族たちからも、まだかまだかと急き立てられているのかもな)
だがポンセロの様子から考えるに、魔境という地については色々と知っているが、それがどれ程恐ろしい場所であるのかは知らない様だった。まあ、商人が魔境に実際に
しかし、魔境の恐ろしさをカルフォン公爵家も分かっていなかったとは、それは公爵家として大丈夫なのかとは素直に思った。現にカノッサ公爵家では、魔境の恐ろしさを理解していたからな。
ポンセロが雇った者たちが向かうのか、カルフォン公爵家が雇った者たちが向かうのかは分からないが、桃が自生している場所に向かう事が出来る者がいるのだろうか?
アンナ公爵夫人には、正確にどのくらいの深さの場所にあるのかを伝えなかったが、桃が生っている木々があるのは魔境の最深部に結構近い位置だ。ベイルトン辺境伯家に仕えている者や、ベイルトン辺境伯領に暮らしている者たちの中で、同じ所まで辿り着ける者は両手で数える程しかいない。まあ、この国にも強者はいるだろうし、何処か一つの陣営くらいは桃を見つけて持って帰れるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます