第75話
アンナ公爵夫人の予想通り、あのお茶会から三日後に、俺の身元が完全に知られた様だ。現在カノッサ公爵家以外で俺の身元を知っているのは、マルグリット嬢の生家であるベルナール公爵家、殿下の側近の一人であるマルク・カルフォンの生家であるカルフォン公爵家、そしてアルベルト殿下を
そこから各公爵家や王族の御用商人たちへと情報が伝わり、騎士学院へと連日の様に面会依頼が申し込まれている。だが俺も学生の身であるので、時間の余裕がある時にのみ面会を受けている。
御用商人にまで上り詰めた海千山千の商人たちは、顔はニコニコと親しみやすい様な笑顔を浮かべているが、目は一切笑っていないのが見て分かってしまう。恐らく、ベイルトン辺境伯家の跡継ぎでもない三男坊で、十七歳のクソガキが交渉の相手だという事から、骨の髄まで吸い尽くしてやろうとでも考えているんだろうな。
「お初にお目にかかります。私、カルフォン公爵家の御用商人をしております、ポンセロと申します。本日は、貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます」
ポンセロと名乗った商人は、俺に対して下手に接しながらも、強かに観察を続けている。外見から察する年齢は、三十代中盤から後半。ブラウンの髪に、フォレストグリーンの瞳をした、少しぽっちゃり気味の男性。
身に纏っている服装や帽子など、全てが上質な素材で作られており、ポンセロの懐具合がどのくらいなのか凡そ理解出来る。それから、指輪などの装飾品も身に着けており、それらがどのくらいの価値がある物なのかも見て分かる。
まあ、商人にも色々な考えの人がいる。金を稼ぎ、溜め込むだけ溜め込む商人もいれば、ポンセロの様に稼いだ金で高い服や装飾品を買う商人もいる。それ以外にも、生活に困っている人々を助けるために金を出す商人もいる。
個人的には、真っ当に稼いだ金ならばどう使おうが本人の自由だ。しかし俺個人としては、どういった商人に好感が持てるかと言えば、他人の為に金を出せる商人になってしまうな。だがポンセロの様な立場のある商人にもなれば、着飾る事が必要であるというのも否定できないけどな。
「初めまして、ウォルター・ベイルトンと申します。単刀直入で申し訳ないのですが、ポンセロ殿のご用件は、他の方々と同じだと思っていいんでしょうか?」
「はい、そう思っていただいて構いません」
この商人との面会は、ポンセロ相手が初めてではない。ベルナール公爵家の御用商人にも面会したし、王家の御用商人にも何人か面会している。そのどれもが桃に関しての面会内容である事は明白であり、当然ポンセロもそうであると分かった上で質問をした。そして、その質問に笑顔を浮かべたまま、そうだとポンセロは答えた。
俺としては別に隠し立てする事でもないので、桃に関しては答えが決まっている。そしてこの答えによって、アイオリス王家がベイルトン辺境伯領を俺たちから奪い取る様な真似をすれば、まず間違いなくアイオリス王国は滅びるだろうな。
魔境はそんなに簡単な場所ではない。一欠片でも甘い考えが混じっていれば、一瞬で全てを喰い尽くされるような場所、それが魔境という土地だ。
桃を手に入れるために俺たちをベイルトン辺境伯領から追い出せば、拮抗している状況が
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