第63話
一年に一回の誕生日を良い思い出にしてもらうために、目の前で無念そうに桃へと熱視線を送っている三人に、俺から一つの提案をする。
「アンナ様、イザベラ嬢たちも、この桃を味見してくださいませんか?」
「は?」
「「え?」
「皆さんの驚きの大きさで、この桃がどれだけ凄いものなのかは理解しました。ですが俺としては、マルグリット嬢が最も喜んでくれるものを贈りたいと思っています」
「……分かりました。ウォルターさんの意思を尊重します」
「それと話は変わるんですが、俺はこの桃の事を美味しい果物くらいにしか思っていません。なので、マルグリット嬢に心から喜んでもらえるのか分かりません。そこで提案なのですが、同じ女性である皆さんに食べてもらい、この桃をおすすめ出来ると太鼓判がほしいんです」
「つ、つまりそれは……」
「もしかして……」
「…………この‟若返りの桃”を、食べさせてもらえるという事ですか!?」
「はい、そう思っています」
俺の返事に、女性陣は歓喜の声を上げる。特にその中でもアンナ公爵夫人は、まるでイザベラ嬢たちと同年代の少女に戻ったかの様に、心から喜び満面の笑顔を浮かべている。部屋の中から喜びの声が急に聞こえた事で心配したのか、扉が三回ノックされてしまう。そのノック音が聞こえた瞬間、アンナ公爵夫人の雰囲気がガラリと変わり、何時もの出来る女社長の様な雰囲気になる。
「奥様、お嬢様方、大丈夫でしょうか?何かありましたか?」
「いえ、大丈夫よ。ちょっと嬉しい事があって、はしゃいじゃっただけなの。気にしないでいいわ」
「分かりました。また何かございましたらお呼びください」
「ええ、その時はお願いね」
「では失礼します」
扉の向こうにいた執事さんと思われる男性は、そう言って職務へと戻っていく。アンナ公爵夫人は、自分が年甲斐もなく少女の様に喜んでしまった事を、少しだけ反省している様だ。だが直ぐにまた少女の様な雰囲気に戻り、桃を食べられるという事にワキワキドキドキして、期待の目を桃へと注いでいる。
「……それじゃあウォルターさん、桃を一切れずつ分けていってもいいかしら?」
「え?」
「「「え?」」」
「え~と、この一個は一人分の桃です。味見してもらうのに、一切れだけで終わらせるなんて事はありませんよ」
「「「!?」」」
俺の言葉に、女性陣三人共が驚き・困惑・歓喜といった感情が入り混じった状態で、声も出せない状態になっている。そんな女性陣をとりあえず一旦放置して、バックパックから‟若返りの桃”と呼ばれる桃を新たに二つ取り出し、三人の目の前に置いていく。
女性陣三人の視線が、新たに取り出され、机の上に置かれた二つの桃に注がれる。三人共、視線を移しながら三つの桃を順番に見ていく。そして十分に三つの桃を眺め終わった後、認識出来た現実によって、完全に思考が停止して動きが止まってしまった。
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