第62話
威圧感を放つ綺麗な三人の女性に詰め寄られている状態に、内心でビクつきながらも三人からの問いに答える。
「ど、どういう事かと言われましても。先程アンナ様が仰った桃に関する噂が、どれも当てはまっていて正しかった事に納得しただけです」
俺が放った言葉に、女性陣三人は衝撃を受けた様によろめきながら後ろに下がる。そんな中で、イザベラ嬢とクララ嬢が何かを思い出した様に、ハッとした表情を浮かべる。その二人の変化に目聡く気付いたアンナ公爵夫人が、二人に目配せをして情報共有を求めた。イザベラ嬢もクララ嬢も、その目配せにそれぞれ頷き口を開く。
「色々と衝撃な事があり過ぎて忘れていましたが、それよりも衝撃な事をウォルターさんが言っていました」
「‟若返りの桃”を私たちに見せる直前、ウォルターさんのお母様や叔母さまの誕生日にはこれを贈り、非常に好評であると私たちにそう告げていました」
「な!?……ウォルターさん、それは本当ですか?」
アンナ公爵夫人が再び俺に詰め寄り、食い気味に質問してくる。その顔は先程よりもさらに鬼気迫っており、アンナ公爵夫人の気持ちの強さが伝わってくる。そんなアンナ公爵夫人を一旦落ち着かせるために、俺は早々に事実である事を伝える。
「つまりベイルトン夫人やイストール夫人たちは、昔から何度も貴重で希少な‟若返りの桃”を口にしていて、その恩恵を受け続けていたと。そして、その効果が私が言った噂の通りであったから、ウォルターさんは納得したという事なのね」
「そ、その通りです」
「ですがどうやって‟若返りの桃”の調達を?まさか、‟若返りの桃”の栽培に成功したというの!?それが事実なら…………」
何やら考え込んでいるアンナ公爵夫人が、色々な勘違いを起こしている事に気付いた俺は、早急にその勘違いを正すために、‟若返りの桃”についてを教えるために口を開く。
「アンナ様、ベイルトン辺境伯領でこの桃を栽培しているわけではありません」
「…………ならば、この‟若返りの桃”はどうやって定期的に入手しているのですか?」
アンナ公爵夫人の質問に、イザベラ嬢やクララ嬢も固唾を飲んで俺を見る。二人もこの桃をどの様に入手しているのか気になっている様だし、定期的に入手できるなら手に入れたという思いがあるのだろう。だが、世の中そんなに簡単にはいかないのが、人生というものだ。
「アンナ様やイザベラ嬢たちが‟若返りの桃”と呼んでいるこの桃は、ベイルトン辺境伯領の近くに存在する魔境の中に育つ木に生っています。俺は桃の生る木の場所を偶然見つけ、毎回そこから持ち帰っているだけに過ぎません」
「あの凶悪な魔境から…………。知らぬとはいえ、大変無礼な事を申しました」
「いえ、分かっていただけたのならそれで十分です」
近年ベイルトン辺境伯家を下に見る貴族家が出てきているが、カノッサ公爵家の夫人ともなれば、魔境の恐ろしさをしっかりと認識しているのは当然か。そして、その魔境から桃を持ち帰ってくるのがどれだけ難しい事なのかも、今の会話で十分に理解してくれた様だ。
(幼い頃から毎日の様に戦ってきた魔境は、俺にとって庭みたいな場所だ。桃を取りに行って戻ってくるぐらいなら、その日のうちに終わらせる事も出来る。まあ油断すれば、速攻魔物たちの餌食になるがな)
女性陣三人は、この桃が魔境から採れるものだと知り、非常に残念そうにしている。貴重で希少な果物であり、喉から手が出る程に欲していても、魔境から採れたものであるという事実が、カノッサ公爵家夫人であっても手を伸ばす事を躊躇させている様だ。
だが俺としては、色々と話を聞いたうえでなお、マルグリット嬢に贈るものはこれにしたいと思った。女性に何かを贈るのなら、最も喜んでくれるものを贈りたいしな。
(マルグリット嬢に喜んでもらうためにも、まずは三人にも味見をしてもらうことにしよう)
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