第61話
アンナ公爵夫人に鋭い視線で見られたイザベラ嬢とクララ嬢は、その迫力に気圧されながらも、アンナ公爵夫人をここに呼ぶに至った流れを説明をしていく。
最初にマルグリット嬢の誕生日の話になり、俺がその誕生日に何かを贈ろうとしているという話から入った。その話が始まると、アンナ公爵夫人の顔が少しの間柔らかい表情へと変わる。マルグリット嬢との事もナタリー嬢の事も、アンナ公爵夫人はとても気に入ってるからな。
しかし直ぐに真剣な表情へと戻り、イザベラ嬢に続きを促す。続きを促されたイザベラ嬢は、俺が誕生日に贈るものの候補が一つあるという話や、それが本当に喜ばれるのかどうかを確認してほしいと言って、‟若返りの桃”を取り出して机に置いたという事を語る。
アンナ公爵夫人は、話の途中からジッと俺を見続けている。ただ‟若返りの桃”がイザベラ嬢が所有する物ではなく、俺が所有している物だと知ってからは、桃が何処かに消え去らない様にと両手でガッシリと掴んでいたが、今はその手を離して元の位置に戻している。その代わりと言っては何だが、先程よりもギラついた、肉食獣の様な視線を俺に向けてきているがな。
「……色々な意味で話は理解したわ。それじゃあまず初めに、ウォルターさんの質問に答えましょうか。これが誕生日の贈り物で喜ばれるかという質問でしたが、マルグリットのみならず、この国に生きる全ての女性が喜ぶ贈り物である事は間違いありません」
「そ、そうですか。なら良かったです。ならマルグリット嬢への贈り物はこれに……」
「それは少しお待ちください」
「え?でもこれ以外となると……」
「それは分かっています。ですが、貴重な‟若返りの桃”ですよ。市場に出たのも、正式な記録によれば七十年前が最後なのよ?それもたったの一つだけ。その様な希少な‟若返りの桃”を安易に贈り物にしてしまうと、贈られたマルグリットも困るかもしれないし、もし‟若返りの桃”を食べた事が周囲に露見すれば、確実に厄介事がマルグリットにも降りかかるわ」
「お母様、そこまでなのですか?」
「ええ、そうよ。‟若返りの桃”を食べると肌艶などがきめ細やかになるし、身体の不調も立ち所に良くなるという噂よ。そんな噂のある‟若返りの桃”を食べたら、マルグリットにどんな変化が起きるか分からないし、それが見ただけで分かってしまうのかどうかも分からないわ。だからこれに関しては、慎重にならなきゃいけないわ」
「「なる程」」
「…………なる程、だから母さんや叔母さんたちは………」
「「「!!」」」
俺が思わず呟いた言葉は、三人が考え込んだ事で生まれた静寂の中に、ハッキリと響いてしまった。その言葉を聞き取った三人の表情は劇的に変わり、もの凄く恐ろしい表情へと変わる。凄みのある顔と雰囲気に変わった三人は、椅子から立ち上がって俺へと詰め寄ってくる。
「「「それは一体どういう事なのか、しっかりと説明してくださいませんか」」」
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