第57話

 再び現れた混沌の空間の中での戦いは、正しく激闘であったと言っても良い。分厚い脂肪と言う、天然の防具を持つオークたちは非常に防御力が高い。そして何よりも、非常にタフである。

 何度切りつけようと、何度貫こうと、一撃二撃程度では地に倒れる事はない。それこそ一撃で倒したいのなら、心臓を一突きで貫くか、首を一撃で切り落とすしかない。このオークの高い防御力とタフさは、低ランクの魔物の中でもトップクラスであり、上を目指す者たちの一種の登竜門の様な扱いの魔物だ。


「ウォルター、ドロップ品の中に睾丸とか貴重なものは落ちてたか?」

「いや、俺は見かけてないな。基本的には肉ばっかりだ。まあダンジョンだし、それもしょうがないけどな」

「ああ、そうだよな」


 これがダンジョン外である地上でオークを倒していたら、一体分丸ごと素材が取れる。オークは一体倒すだけで、肉を始めとした様々な素材を得る事が出来る。特にその中でも価値が高いのが、オークの睾丸こうがんだ。この睾丸を使って作る精力剤は効能が高く、貴族御用達と言ってもよい程に高く売れる。そのため、地上やダンジョンでオークを見かけたら、優先的に倒した方が良いとまで言われている。


「おお!!睾丸が出たか!!」

「お、やっぱり階層主だけあって、一体分からは出たか」

「運が良かったな。肉だけでもいいんだが、やっぱり睾丸が出るだけでも大分違うからな」

「まあな。知り合いの冒険者たちの中にも、オークを大量に倒して、結構な額を稼いだって人もいたからな」


 そんな会話をしながらも手を動かしていき、ドロップ品を全て拾い終えた俺たちは、安全地帯となった階層主の部屋で身体を休める事となった。基本的に、階層主を倒した後は魔物が召喚される事はないので、部屋で一休みしてから次の階層へと降りていくのが一般的だ。


「そういやウォルター、近々マルグリット嬢の誕生日があるが、贈り物はちゃんと用意してあるよな?」

「…………え?」

「…………まさかとは思うが、知らなかったのか?」

「…………全く」


 ジャンから告げられた衝撃の内容に、俺は茫然としてしまう。イザベラ嬢からもクララ嬢からも、そういった話は聞いていないぞ。いや、もしかしたら次の休日に合う際に、俺に教えてくれるつもりだったのかもしれない。


「まあ、俺もマリーからの情報でその事を知ったから、ウォルターにそこまで何か言える立場じゃないけどな」

「俺もソレーヌから言われて知ったからな。ウォルターが知らないのも無理はないんじゃないか?」

「イザベル嬢やクララ嬢から何か聞いてなかったのか?」

「多分だが、次の休日辺りに俺に知らせるつもりだったのかもしれん。まだ誕生日まで日があるんだろう?」

「ああ、まだまだ日はある。かと言って、そんなに遠くでもないぞ」


 ジャンとマークが教えてくれたマルグリット嬢の誕生日は、確かに直近でもないが、遠い日でもなかった。次の休日辺りに教わっても、贈り物を選ぶ時間は充分なくらいには余裕がある。

 何にしても、家族以外の女性の誕生日への贈り物を考えるのは、当然だが今世では初めての事だ。うちの家族の女性陣には、毎年魔境で得られるある果実を贈り物としていた。それを女性陣はもの凄く喜んでいたので、毎年何も考える事なくその果実を贈るだけで良かった。

 しかし今回は、同年代の女性の誕生日だ。うちの家族の女性陣には高評価な贈り物が、マルグリット嬢にも喜ばれる贈り物とは限らない。その辺の事も、次の休日にイザベラ嬢たちに相談してみるか。

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