第56話
俺たち騎士学院生と引率の先生は、ダンジョンにある安全地帯で昼食を済ませた後、今回の訓練終了目的である十階層へと降りてきた。今の所怪我人も死者もおらず、訓練は順調そのものだ。
過去の騎士学院における実戦訓練の記録の数々では、癒す事の出来ない怪我を負って騎士を諦めざるを得なかった生徒や、ダンジョンと言う場所を舐め切って命を落とした生徒もいる。
それらの事を知っている身としては、今回全員無傷で実戦訓練を終えられたのなら、実に運が良かったという事だろう。
「ここが、今回の実戦訓練の最終目標地点である十階層だ。この階層には、他の階層の様に広大な空間は存在しない。あるのは、
先生が放つ言葉に、俺たちの顔が引き締まる。階層主とは、ダンジョンの区切りとなる階層にのみ存在する、他の階層より一段階上のランクの魔物だ。そして大抵のダンジョンでは、階層主を倒さなければ、その下の階層へと降りる事が出来なくなるというものが多い。中には、階層主を倒さずに下に降りる事が出来るダンジョンもあるそうだが、俺は実際に目にした事はない。
「事前に確認をとった情報によると、ここのダンジョンの十階層の階層主は、オークだそうだ。出現する個体数は、階層主の部屋へと入った人数によって変わるそうだ。だが、現段階で実際に出現した最大数は十体。それ以上の個体が出てくるのは不明だ」
「まあ、ここは初心者向けのダンジョンですからね。強い奴らは稼ぐためにも、もっと難度の高いダンジョンへ直ぐに行ってしまいますからね」
「そう言う事だ。我々は十を超える規模でこのダンジョンへと潜っているが、実際に我々と同数のオークが出現するのかは分からん。だからこそ、気を引き締めていくぞ」
『了解!!』
先生が先頭に立ちながら、階層主の部屋へと足を踏み入れる。最後の一人が部屋の中に入り切ると、開かれていた大きな両扉が閉まる。そして地面に魔法陣が現れ、光り輝いていく。
その光り輝く魔法陣の数は十個。入った人数に比例して増えるという話ではあったが、このダンジョンでは十体が限界数の様だ。一つ一つの魔法陣からオークが召喚されていき、鼻息荒く俺たちに殺気を飛ばしてくる。
「油断するなよ!!しっかりと連携をして戦えば、お前たちならば的確にオークを仕留められる!!いいな!!」
『了解!!』
『プギャァァァァ!!』
オークたちは俺たちの声に対抗するかの様に、十体が一斉に威嚇の咆哮を響き渡らせる。そしてそのまま、十体のオークたちが駆けてくる。
「行くぞ!!死ぬなよ、お前たち!!」
『死にませんよ、あの子が待ってるんで!!』
『チクショ――――!!』
「そ、そうか。では改めて、行くぞ!!」
『オォォォォ!!』
再び幸せオーラを纏って突撃するジャンやマークたちと、嫉妬や羨む気持ちによる負のオーラを纏って突撃する同級生たち。先生は先生で、二つの勢力の勢いに呑まれてしまい、押されてしまって何も言えなくなっている。今再び、ダンジョン内で混沌の空間が出来上がり、その混沌が怒涛の勢いでオークたちに襲い掛かっていった。
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