第58話

 そして訪れた次の休日、俺はカノッサ公爵家の屋敷でイザベラ嬢たちと情報共有をしている。イザベラ嬢たちは積極的に計画を遂行している様で、徐々にではあるが魔法学院内にあるという、イザベラ嬢をトップとした派閥の力を大きくしているそうだ。


「学院内にもそれなりの影響力を与えられる程には、私たちの力も増してきました」

「ここからは、魔法学院への影響力をさらに高めつつ、それと並行して社交界の方にも影響力を高めていくつもりよ」

「なる程。計画が第二段階に入ったばかりだというのに、相当な速さで勢力を拡大させてますね」

「でもこの国のトップたちと真正面から殴り合うとしたら、まだまだ力も影響力も弱いわ」


 確かにイザベル嬢たちの影響力や力は、彼女たちを慕う女生徒たちにしか通用していない状態だ。女生徒たちのご両親たちなどに関しては、イザベラ嬢たちの影響力や力というよりも、イザベラ嬢のご両親であるカノッサ公爵やアンナ公爵夫人の持つ影響力や力の方に従っている。

 まあこれについては、親と子の世代の違いもあり仕方のない事でもある。俺の実家でも、俺の事を甥っ子の様に扱う親父の部下たちも、親父とはしっかりと仕える主と部下と言った関係性を崩す事は無いからな。だがそれは公の場での話であって、私的な場では主も部下もなく、仲の良い友人として酒を酌み交わすオジサンたちなのだ。

 女生徒たちのご両親とカノッサ公爵たちが同じ様な関係なのかは分からないが、仕える主と部下といった様な関係であるのは間違いはないだろう。中には、私的な場でも仲の良い人もいるんだろう。


(計画についての情報共有も大事だが、俺個人にとって最も大事な事についての情報も共有しておきたい)


 イザベラ嬢に密かにアイコンタクトを送り、俺から内密な話がある事を告げる。俺のアイコンタクトを受けたイザベラ嬢は、即座に俺が困っている事を見抜いたのか、スススッと傍に近づいてきてくれる。


「ウォルターさん、何かお困りごとですか?」

「……ジャンから聞いたんですが、何でもマルグリット嬢の誕生日が近々あるそうですね」

「え?…………ウォルターさん、もしかしてご存じではなかったんですか?」

「……ええ、そうです。ジャンから聞いて驚きました」


 俺が素直にそう告げると、イザベラ嬢が呆れの混じった視線でこちらを見てくる。そのイザベラ嬢の視線に、恋人が記念日を忘れているのを咎める彼女の怒りの様なものを感じて、申し訳ない気持ちになってしまう。


「私たちが伝え忘れていたのも悪いんですから、そんな顔しないでくださいよ。……それで、何かお聞きしたい事があるんですよね?」

「はい、その通りです。実は家族以外の女性に誕生日祝いを贈った事が、一度もなくてですね。一応候補はあるんですが、本当に喜んでもらえるのか分からないんです。ですので、イザベラ嬢たちに相談に乗ってもらえればと思っていまして」

「なる程、そう言う事ですか。分かりました。私で良ければ喜んでお力になります」

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