第54話

イザベラたち四人が最初の目標を定めた頃、ウォルターはジャンやマークといった同級生たちと共に、王都にある初心者向けの難度の低いダンジョンへと潜り、魔物との実戦訓練を行っていた。


「ジャン!!マーク!!陣形を崩すなよ!!難度の低いダンジョンへと言えども、ダンジョンはダンジョンだからな!!余裕ぶっこいてたら、即座に死神に連れてかれるぞ!!」

「分かってるよ!!」

「こんな所で死んで、マリーを悲しませる訳にはいかない!!」

「俺だってそうだ!!ソレーヌとの幸せの為にも、俺は簡単に死ぬわけにはいかねぇんだ!!」

『ウォオオオオオオ!!』


 俺が放った発破に、ジャンやマークのみならず、同じく婚約者の女性がいる同級生たちが奮起して声を上げる。その姿に、俺と同じ婚約者の女性がいない者たちの心は、『リア充爆発しろ!!』と一つになる。

 奮起した同級生たちと、嫉妬に怒っている同級生たちと共に、目の前にいるゴブリンの群れに向かって駆けていく。それに反応する様にゴブリンたちも興奮した声を上げて、俺たちに向かって駆けてくる。


「俺とマリーの幸せの為に、お前ら死にさらせ!!」

「ジャンの言う通りだ!!ソレーヌとの幸せの生活の為にも、お前らさっさと屍となれ!!」

『俺たちの幸せの為に、死ねぇ!!』

「あいつらばっかり良い思いしやがって、妬ましい!!」

「俺だって婚約者ぐらい直ぐに…………、やっぱり羨ましい!!」

『クソォォォォォォ!!』

『グギャァァァァ!!』

「まさに混沌カオスだな」


 様々な感情が入り混じった戦場の中で、俺はそう感じながら剣を振るっていく。マークやジャンの幸せ一杯の叫びが響き渡り、それに反応する様に、婚約者の女性がいない者たちの心からの慟哭が響き渡る。そしてさらに、ゴブリンたちもマークやジャンたちリア充の惚気のろけに怒り心頭のご様子で、一体一体が身体全体から怒気を発している。

 だがジャンやマークたちの幸せパワーや、婚約者の女性がいない男たちの負のパワーには敵わず、ゴブリンたちは一体、また一体とその命を散らして屍となって地に沈んでいく。

 皆変なテンションのまま実戦訓練を行っているが、これでも騎士学院の厳しい鍛錬の毎日を、一年間必死に耐え忍んできた猛者たちだ。油断や慢心などしないならば、ゴブリン程度の低ランクの魔物相手にてこずる事もないし、傷一つ受ける事もなく倒すのは造作もない。

 そんな猛者たちの勢いはとどまる所を知らず、全てのゴブリンたちが地に沈むのは時間の問題であった。地に沈んでいたゴブリンたちの身体が消え去り、そこにはドロップ品が落ちている。

 それらをせっせと皆で拾いながら、あの混沌の空間があと何回続くのだろうかと一人考えながら、心の中でそっとため息を一つ吐いた。

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