第50話

 あれから待つ事数分、目の前に並べられた料理たちは、カノッサ公爵家お抱えの料理人の作る料理に匹敵する程だったわ。どれもこれもが美味しくて、思わず頬が緩んでしまったもの。クララたちもそれは同じ様で、全員がその美味しさを堪能していたわ。

 ブリュノさんは先程言っていた様に、既にお店から外に出てしまっていた様なので、対応してくれた副店長さんに大満足であったという事を伝えた。その際マルグリット様とナタリーさんにも話を振って、どの料理がどんな風に美味しかったのかを語ってもらい、副店長やこの店の店員さんたちに好印象を残してもらったわ。


(ここまでは上々の出来ね。午前中だけでも、服屋にナターシャ魔道具店、それにブリュノさんのお店へと回ってきて、マルグリット様やナタリーさんの素の姿といったものを見せていく事が出来たわ。とりあえず、現段階では私とクララの作戦は成功ね)


 どのお店においても、マルグリット様とナタリーさんは友好的な態度で店員さんたちと交流していた。老舗の服屋も、ナターシャ魔道具店も、様々な客層の方々が来店するお店。今日の私たちの事について、誰かしら必ず店で話題として触れるであろう事は間違いない。商人も貴族も噂好きというのは、同じ人である以上は変わらないからね。

 そして次に向かったのが、王都の中でも長い歴史を持つ劇団を抱えている劇場ね。ここには二つの劇場が建てられて、一つは演劇などを行う劇場で、もう一つはオペラを上映するための歌劇場。最初はオペラにしようかと考えたけど、最近の王都の流行の一つに恋愛ものの演劇を見るというものがあって、話題作りや人目に触れやすい事を考えてそちらにしたわ。

 この劇場や劇団のオーナとは昔からの顔見知りなので、まずはオーナーに挨拶しに向かう。セバスを先頭にして、劇場の裏へと進んでいく。その際、顔見知りの親しい俳優女優さんたちと軽く挨拶を交わしながら、オーナーがいるであろう一番奥の部屋へと向かって歩く。そしてオーナの部屋の前に到着し、セバスがオーナーの部屋の扉を三回ノックする。


「誰だ?」

「ダミアン殿、カノッサ公爵家にお仕えするセバスです」

「おお!!セバスさんでしたか!!どうぞお入りください」

「では、失礼いたします」


 セバスが扉を開けて先に部屋の中へと入り、安全確認をサササッと終わらせてから私たちに合図をくれる。それに頷いて返してから、私たちも部屋の中へと入っていく。


「イザベラお嬢様!!お久しぶりですな!!」

「ええ、久しぶりね、ダミアン。調子の方はどうかしら?」

「男女の恋を題目にした演劇が注目される様になって、お客さんが増えてきた事もあって、色々と順調ですな」

「そう、それなら良かったわ。今日は挨拶をしたかったのもそうだけど、皆色々と忙しくしてるだろうからと思って、差し入れを持ってきたのよ」

「差し入れですか!!それはありがとうございます!!」

「今日はこの後の公演で最後でしょ?差し入れは公演が終わった後に持ってくるわ。今回の差し入れは料理でね。冷たいものもあるから、後の方がいいでしょ?」

「そうですな、その方がこちらとしても大変ありがたいです」

「分かったわ。それじゃあ、公演が終わった後はいつも通りにお願いね。私の友人についても、そこで紹介するから」

「分かりました。我々一同、その時を楽しみしてお待ちしております。……皆様方、本日の公演を楽しんでいただけますと幸いです」


 ダミアンは最後に、オーナーとしての顔を見せながら、綺麗な一礼をしてみせた。その綺麗な一礼の動作から溢れ出る、劇場や劇団のオーナとしての絶対的な自信を見て、本日最後の公演も大成功に終わる事を確信したわ。

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