第49話

 ナターシャ魔道具店を後にして、再び馬車に乗り込んで私たちが次に向かうのは、カトリーヌさんに教えてもらったおすすめのお店よ。そこは料理の質もさることながら、料理の提供スピードや接客のレベルも非常に高いとの事。さらには、スイーツやお菓子関係にも力を入れていて、足繁く通うお客さんの中には高位貴族の方々もいるらしく、王都では知る人ぞ知る有名店なのだそうよ。

 私たちは馬車に揺られながら、どんな料理を食べようかと楽しく語り合う。カトリーヌさんからの情報によると、そのお店はバランスの良いさっぱりとした料理が多く、特に女性のお客さんに好評だそうよ。

 そのまま馬車で揺られる事十分程で、カトリーヌさんおすすめのお店へと到着したわ。


「セバス、貴方も一緒に昼食を取りましょう。お店の方に、馬車を置いてもいい場所を確認してきてくれるかしら」

「畏まりました。では馬車の中で、少々の間お待ちください」

「ええ、分かってるわ」

「では、行ってまいります」

「お願いね」


 今日一日御者を務めてくれている、執事であるセバスチャン(愛称セバス)が私たちに綺麗な一礼をしてから、お店の中へと入っていく。


(お店の近くに公爵家の紋章付きの馬車が置かれてたら、他のお客さんが入りにくくなっちゃうし、他の貴族たちも遠慮してお店での食事を取り止めてしまうわ。そうなったら、お店に迷惑がかかっちゃう。そんな事になったら、このお店を紹介してくれたカトリーヌさんの顔に泥を塗る事になってしまうわ)


 そして待つ事数分、お店の扉が開いてセバスが戻って来た。そして、セバスの後ろからお店の店員さんと思われる男性も一緒に出てきて、二人一緒に馬車へと近寄ってくる。


「イザベラお嬢様、こちらはこのお店のオーナー様であらせられます、ブリュノ様でございます」

「初めまして、ブリュノと申します。本日はご来店ありがとうございます」

「初めまして、イザベラ・カノッサと申します。それで、オーナーであるブリュノさんが顔を見せにくるというのは、何かありましたか?」

「いえ、申し訳ないのですが、私はこの後に店を離れなければならない用事がございまして。その前に、皆様に一言ご挨拶をと思いまして」

「そうでしたか。ブリュノさんの貴重なお時間を割かせてしまう事になってごめんなさいね」

「いえいえ、滅相もございません」

「それで、馬車はどこに置いておけばいいのでしょうか?」

「それでしたら、こちらの方にお願いできますでしょうか」

「セバス、お願い」

「了解致しました」


 セバスは軽やかに御者席へと乗り込み、ゆっくりと馬車を指定された位置へと歩かせる。そして、指定された位置でピッタリと馬車を止める。セバスは御者席から軽やかに降りて、馬車の扉を開けてくれる。


「ありがとう、セバス」

「「「ありがとうございます」」」

「いえいえ、ではイザベラお嬢様からどうぞ」

「ええ」


 私たちはセバスにエスコートされながら、ゆっくりと馬車から降りていく。そして全員が馬車から降りると、ブリュノさんの先導の元お店の中へと入っていく。ブリュノさんが案内してくれたのは、周囲から見えずらい位置に離れている貴族向けの席ね。


「ご注文の方はどうなさいます?」

「お時間の方はまだ大丈夫なのですか?」

「ご注文を受けるくらいの時間ならば大丈夫です」

「それでしたら、ブリュノさんたちのおすすめの料理を頂けるかしら?」

「えっと、それで宜しいのですか?」

「ええ、それでいいわ。ブリュノさんたちの自慢の一品をお願い」

「!!…………承りました。では、少々お待ちください」

「分かったわ」


 ブリュノさんは私たちに一礼をした後に、一流の料理人の顔つきになりながら厨房へと向かって行った。さて、どんな料理が出てくるのか楽しみね。

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