第48話

 店の奥に並べられている魔道具の数々は、先程まで見ていた魔道具とは格が違い過ぎるわね。あれらの魔道具たちも、一流の魔道具師たちによる作品なのは間違いない。だけど、今目の前に並べられている魔道具たちと比べてしまうと、正直に言って見劣りしてしまうわね。どれもこれも、放っている雰囲気がもの凄いもの。


「それじゃあ、最初はウォルター君に送ってあげる戦闘用魔道具を選んでいきましょうか」

「「「「はい」」」」


 この魔道具たちの放つ異様な雰囲気の中を進み、カトリーヌさんが色々と説明をしてくれる。その中で私たちが選んでいったのは、武器型の戦闘用魔道具ではなく、野営時や緊急時に役立つ魔道具。それに、日常生活にも使える魔道具たちになるわね。武器型の戦闘用魔道具については、魔法使いである私たちにはどういった所が良いのか分からないため、カトリーヌさんにお任せする事にしたわ。

 ここにある魔道具のどれもこれも、一つ一つの値段が驚く程高い。だけど公爵家というものは、それらお高い魔道具を幾つか買った所で揺らぐような、脆い屋台骨ではないのよ。それに我が家は、私やクララの二人で行ってきた領地改革のお蔭で、この十数年でもの凄く稼いでいるからね。さらに言えば、私個人として持っているお金も相当な額が溜まっているのよ。


「とりあえず、ウォルター君に送ってあげるものはこれくらいでいいわね。次は、イザベラたちが自分で使う魔道具を選んでいきましょうか」

「「「「はい」」」」


 カトリーヌさんは、まず最初に色々な質問を私たちにしてきたわ。どれくらいの魔力量があるのか、どの属性魔法への適性が高いのか、自分がもっとも得意としている魔法はどんな魔法かなど、本当に様々な事を聞かれたわ。私たちもそれらの質問に対して、嘘偽りなく真剣に答えていく。

 質問の答えから得られた情報を基にして、カトリーヌさんは一人ずつ順番に、最適であると考えた魔道具を選んで紹介してくれる。それら選ばれた魔道具は、私たちそれぞれが求めているものを確実に満たすものであり、私たちの戦い方の幅をさらに広げてくれるものだわ。


「それから、この際だから杖の方も新調しちゃいましょうか」

「杖もですか?」

「そうよ。一流の魔法使いにもなれば、杖がなくても高度な魔法を使える様になるわ。でもそれは、自分が一流の魔法使いである事が前提なの。そうでないのならば、杖を使って魔法を習熟しゅうじゅくしつつ、杖がなくてもいい様に鍛えていった方が確実よ」

「カトリーヌさんもそうだったんですか?」

「ええ、私もその道を歩んでここまできたわ。そこでイザベラたちにお勧めしたいのが、このエルダートレントの枝を使って作り出した杖ね」

「エルダートレント!?杖に使われる素材の中でも、最高級の素材じゃないですか!?」


 エルダートレントの枝かた作られた杖と言えば、魔法使いの憧れの品の一つなのよ。魔力効率や属性魔法への変換効率などが非常に高く、膨大な魔力を込めても容易に壊れる事のない耐久性。そして最大の特徴は、使用者である魔法使いと共に成長するという特異性。魔力の通り方や、魔法として発動する際の癖などを杖が学んでいるかのように、使用者である魔法使いに馴染んでいくのが、エルダートレントの杖の最大の特徴なのよ。

 カトリーヌさんは店の裏側へ向かい、縦長の細長い箱を四つ持って戻って来た。そして、その縦長の細長い箱を私たちにそれぞれ渡していく。


「こんな貴重な杖を、私たちにいいんですか?」

「いいの、いいの。だってこれ、私が討伐したエルダートレントの枝から作った杖だもの。誰かに売るのも、誰かにタダであげるのも、私の自由だもの。という訳で、イザベラたちにあげるわ。お金もいらないわよ」

「……本当の本当に宜しいんですか?」

「本当に大丈夫よ。それにまた必要になったら、自分で討伐しに行けばいいしね。それに、これは投資なのよ」

「投資、ですか?」

「そう、未来の一流魔法使いになるであろう子たちに対する投資」

「…………ありがとうございます。エルダートレントの杖に相応しい魔法使いになれる様に、日々努力していきます」

「頑張りなさい」

「「「「はい」」」」

「この後も王都を楽しむんでしょ?次は何処に行く予定なの?」

「そろそろお昼も近いので、何処かの店にでもいこうかと思ってます」

「それなら、私が良いお店を教えてあげるわ。ただその前に、しっかりとお会計を済ませましょうか」

「ふふふっ、そうですね」


 私たちはしっかりとお会計を済ませてから、王都の穴場スポットの良いお店を紹介してもらったわ。最後に、カトリーヌさんへの連絡方法などを確認し合ってから、ナターシャ魔道具店を後にしたわ。

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