第44話

 武器型の戦闘用魔道具や、小物タイプの戦闘用魔道具など色々と見ていくけれど、どれもこれも性能が良く、それ相応にお値段も高い。それに、どういった魔道具がウォルターさんの戦い方に合っているのかが、やはり魔法使いの私では分かりづらいわね。そんな風に悩んでいると、私の後ろから店員さんと思われる人に声を掛けられた。


「先程から色々と悩んでいる様だけど、一体何に悩んでいるのかしら?」

「え?……私の友人への贈り物についてです。彼は騎士学院の生徒でして、何か戦闘に役立つ魔道具を送ってあげたいと思いまして」

「なる程。その彼は完全に魔法が使えない人?それとも無属性魔法は使える人?」

「後者ですね。身体強化を得意としていて、魔力そのものの扱い方も綺麗です。彼は剣を使うんですけど、体術の方も優れています。なので、どういった魔道具を送るのがいいのかと悩んでいました」

「属性魔法を使えない騎士なのに、貴女ほどの魔法使いにそこまで称賛されるなんて、一体何者なのかしらね?」

「私の事をご存じなんですか?」

「そりゃあ有名人だもの。貴女の事を知らない商売人がいたら、そいつは素人か他国の密偵でしょうね」


 そう語る店員さんは、赤髪に青緑色の瞳をした、全身から色気を漂わせている妖艶な美女。クールな顔立ちの綺麗系で、ボン・キュ・ボンと称してもいい素晴らしいプロポーションをしているわ。

 その抜群のプロポーションを誇る身体を真っ黒なドレスで覆い隠し、そのドレスの上から同じく真っ黒なローブを羽織り、両手にも真っ黒な手袋をしている。その上履いているブーツまで真っ黒の、全身を真っ黒でコーディネートしているわ。

 ただ魔法使いの視点で彼女の姿を見てみると、それらはただの服ではなく、全てが高性能な魔法使いの戦闘服だと分かるのよね。その戦闘服に使われている素材は、どれも魔力伝導率や魔力増幅率が最高クラスのものばかりであり、軽量で動きやすい魔法使いにとっては垂涎すいぜんの品であるのは間違いないわ。


「ああ、自己紹介がまだだったわね。私はカトリーヌ・マルソー。このナターシャ魔道具店で働いている店員よ。まあ、本業は冒険者なんだけどね」

「マルソー?このナターシャ魔道具店で働く方は、全てナターシャさんの親族だけでは?」

「イザベラ様は色々と詳しいのね。確かにこの本店だけは、親族のみで経営しているわ。私の祖母が二代前の‟ナターシャ”の妹で、今でも本家とは親交があってね。名字は違うけど、私もナターシャの親族として扱ってくれるのよ。だから、この店で働いてるってわけなの」

「なる程、その様なご事情で。失礼な事を言って、大変申し訳ありませんでした」


 私がそう言って頭を下げると、カトリーヌさんが苦笑いをしながら頭を上げる様に言う。


「そんなに気にしなくてもいいのに。公爵家のお嬢様が、私なんかに頭を下げちゃダメじゃない」

「失礼な事を言ったのですから、頭を下げることくらい当たり前です。それから、私の事はイザベラと呼んでいただいて構いません」

「そんな恐れ多い事は出来ないわよ」

「いえ、最初から私を公爵家の娘だと知ってその口調なのですから、カトリーヌさんならば可能でしょう?」

「…………ふふふっ、分かったわ。じゃあイザベラ、その彼の事を色々と聞かせてちょうだい。その彼の情報を基にして、私が色々と選んであげる」

「はい、お願いします」


 冒険者でもあるカトリーヌさんならば、ウォルターさんの役に立つ魔道具を選んでくれるでしょう。お土産を渡した時のウォルターさんの反応が、今からとても楽しみだわ。

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