第43話
ナターシャ魔道具店の店内は、魔道具や杖が綺麗に並べられていて、とても静かな空間が広がっているわ。店の中には私たち以外にもお客さんがいて、皆さん魔法使いなのか分からないけれど、真剣な表情で魔道具や杖を眺めているわ。
「それじゃあ最初は、各自自由に見て回りましょうか」
「それがいいわね」
「はい」
「分かりました」
他のお客さんに迷惑にならない様にと声を潜めながら、各自自由に見て回る事を提案して、それぞれが店内の色々な場所に向かって移動する。マルグリット様は、自分で初めて杖を選ぶ事に少し興奮した様子で、色々な杖が並べられている売り場へと向かう。クララとナタリーさんの二人は、領地で生活しているご両親のためにと、生活が楽になる様なタイプの魔道具をメインにしている売り場へと向かっているわ。
そして私はというと、バチバチの戦闘用魔道具が揃えられている売り場へと足を進める。長い時をアイオリス王国と共に過ごしてきたナターシャ魔道具店だけど、人々の生活を向上させるための魔道具を作って来たと同時に、その人々の生活を守るための魔道具も作って来たわ。それが、ナターシャ魔道具店が誇る戦闘用の魔道具たちね。
今回のナターシャ魔道具店での買い物では、自分用に幾つか購入するのもあるけれど、ウォルターさんへの贈り物に幾つか購入しようかとも考えているの。今は騎士学院で学んでいるものの、実戦での訓練もあると聞いているわ。私たち魔法学院にも、前回行った森での合同訓練以外にもそういった訓練はある。けれど、それは騎士学院と比べると、回数も危険度も遥かに差があるものになるわ。
それに、騎士学院を卒業した後にベイルトン辺境伯領に帰るとしたら、戦闘用の魔道具は色々と使えるでしょう。ナターシャ魔道具店の魔道具は、性能が高い事もさることながら、長い耐久年数を誇るのも特徴の一つなのよ。だからこそウォルターさんには、ナターシャ魔道具店の戦闘用魔道具はピッタリだと思うのよね。
(う~ん、これもいいけど、あれも良さそうね。……だけど、どうしても魔法使いとしての見方になってしまうわね。いっその事公爵家の財力に物言わせて、良いと思った魔道具を幾つか買ってしまう?その幾つか買った物の中から、ウォルターさんに自分で選んでもらおうかしら?…………まあ、これはどうしても選べない時の最終手段ね。まずは真剣に選んでいきましょうか)
今回の王都でのお遊びのお出掛けの軍資金は、全てカノッサ公爵家が出している。最初は、それぞれ自分たちのお金だけで出来る範囲のプランを練っていたのだけど、私が馬車を借りる事をお願いした時に、お父様とお母様たちから公爵家としてお金を出す事を持ちかけられたわ。
お父様とお母様からは、まずはマルグリット様とナタリーさんを心から楽しませる事が重要であって、その為に掛かる費用などは気にするなと言われたわ。恐らくは、マルグリット様の家庭環境や、ナタリーさんの置かれている状況などを考えての事でしょうね。
それから最後に、お母様がニヤニヤした顔をしながら、ウォルターさんにも何か贈り物を買って上げなさいなと言われてしまったわ。それにお父様は苦い顔をしていたけど、特に文句を言わなかった事から、お母様の例の計画に消極的賛成の立場にいるのだと理解したわ。
私としてもクララとしても、ウォルターさんの事は気に入っているわ。例の計画の事もあるけれど、日ごろの感謝も込めて、ウォルターさんの為になる魔道具を真剣に選んでいく。
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