第42話

 再びのんびりと馬車で移動すること十分、次の目的地に到着したわ。目の前に建っているのは、あの老舗の服屋同様に、長い歴史を感じる木造建築の店。店の軒先のきさきには小さな看板がかけられていて、そこには細長い棒の絵が描かれているわ。そして店の正面にも同じ様な大きな看板がかけられており、そこには細長い棒の絵と共に、ナターシャ魔道具店と大きく記されているわ。

 このナターシャ魔道具店は、百年以上の歴史をもつ老舗の魔道具店なの。店の名前でもあるナターシャという人物は、初代店主にしてアイオリス王国最高の魔法使いと呼ばれた魔女ね。生まれ持った膨大な魔力に、全ての属性魔法に高い適性を持っていた女傑。

 彼女の放つ魔法の威力は、簡単な魔法ですら地形を変えたと言われる程高く、当時敵対していた国々に恐怖を植え付けていたらしい。それに加えて、ナターシャは優秀な魔道具師でもあった様で、性能の良い様々な魔道具を世に残してきたわ。


(でも長い未来である今の時代でも、彼女が最強ではなく最高と称されているのは、女性であるからなのかもしれないわね。今も僅かに残っているくらいだから、当時の方が男尊女卑の風潮が酷かったでしょうしね。そんな時代でも名を残せるほどに、強力な魔法使いだったのね)


 そんな彼女が、敵対国との国境線での戦いの第一線を退いてから始めたのが、このナターシャ魔道具店になるわ。彼女は晩年まで人々のためにと魔道具を作り続け、亡くなってしまう前日まで、この国の人々や後輩の魔法使いたちのためにと精力的に動き続けたわ。

 彼女亡き後は彼女の子供たちが店を引き継ぎ、彼女の元で学んだ愛弟子たちは、暖簾のれん分けの様に独立をして各々の店を開いたわ。彼女の意思を引き継いだ彼らは、彼女と同じ様に精力的に動き続けて、この国の発展と安寧に尽力していったの。そして、その教えや意思が今の時代まで脈々と引き継がれ、アイオリス王国全体へと広がっていった事で、魔道具に関して他国に比べて頭一つ抜けている程になったわ。


「王都一の魔道具店に到着よ。ここは杖だけじゃなくて、色々な魔道具も売り出されてるから、二人も楽しめると思うわよ」

「はい、楽しみです。ね、ナタリーさん」

「そうですね、マルグリット様」


 さっきは女性として笑顔で楽しく服を選んでいた二人が、今は魔法使いとしての顔をしているわ。杖や魔道具は、魔法使いならば一生関わっていくものなので、二人も真剣な雰囲気になっているわ。

 それに、魔道具店それぞれによって様々な特色があるので、良い魔道具や面白い魔道具に出会う事もあるのよね。そういった所も、魔道具店での買い物の楽しみの一つなの。マルグリット様とナタリーさんには、その様な部分も楽しんでもらえればいいなと思っているわ。

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