第41話

 老舗の服屋さんでの楽しいお買い物を終え、次の目的地へに向かうために馬車に乗り込む。服屋さんで購入した服や下着、それからアクセサリーなどの小物類などは、一旦カノッサ公爵家の屋敷へと送ってもらう事にした。


「あの、本当にイザベラ様のお屋敷で預かってもらって宜しいんですか?」

「大丈夫、大丈夫。屋敷には使ってない部屋が幾つかあるから。それに、クララとナタリーさんは学院の寮暮らしだし、マルグリット様のご実家にはあの子がいるでしょ。だから、そういった事に余裕のある我が家が引き受ければいいだけの話よ」

「そうそう、持つ者に頼れるのなら思いっきり頼るべきよ」

「ですが…………」

「気を遣わせて申し訳ありません」

「二人とも、こういう時は謝るんじゃなくて、素直にありがとうでいいのよ。私たちは友達なんだから。大事な友達が困っているなら、私は手を差し伸べて助けるわ」

「「……ありがとうございます」」

「はい、どういたしまして」


 二人の謝意に対して、私は笑顔でそれに答える。そんな私の笑顔を見て、二人とも小さく安堵の息を漏らしながら、笑顔になってくれたわ。二人が申し訳なさそう俯いているよりも、こうして笑顔でいてくれた方が私もクララも嬉しいのよ。

 クララとナタリーさんは、学院の傍に建てられた寮に暮らしているの。この寮に住んでいるのは、主に遠方の領から王都へと来た生徒たちになるわ。

 しかし、ここにも貴族優遇という学院の悪しき習慣が残っているわ。何と驚く事に、学院の傍に建てられている学生寮が二つあるのよね。それも、貴族用と一般生徒用の二つ。これだけで、食堂の時の一件と同じ理由であるというのが簡単に予想出来たわ。

 そして当然の様に、学生寮においても待遇がもの凄く違うわ。貴族用の学生寮には、一流のメイドさんたち使用人から寮専属の一流料理人たちまで揃えられており、実家の屋敷に近い環境になっているそうよ。それにプラスして、凄腕の護衛たちが二十四時間完全警備をしてくれているという充実ぶり。

 それに対して一般生徒用の学生寮はと言えば、当然ながらメイドさんもいないし一流の専属料理人もいない。まあ、学生寮に料理人がいなくもない。ただ料理人と言っても、食堂のオバちゃんと同じ様に一般家庭の主婦たちばかりよ。そして当然の事ながら、凄腕の護衛たちによる二十四時間完全警備も存在しないわ。

 クララとナタリーさんは貴族の子女なので、至れり尽くせりの貴族用の学生寮に住んでいるけれど、それでも部屋が大きい訳ではないのよね。まあ、一般生徒用の学生寮の部屋に比べてしまうと、一部屋の大きさに違いがあり過ぎるけどね。

 そんな感じなので、せっかく買った大量の服や下着、アクセサリーなどの小物類などを部屋の中に全部入れてしまうと、いくら部屋が広いと言えども場所をとってしまうのは間違いないわ。それなるくらいなら、部屋が余っている屋敷で預かっておけばいいしね。

 マルグリット様の方も問題がある。ベルナール公爵家の方々やローラが、マルグリット様の買った大量の服や下着、アクセサリーなどの小物類を見れば、どういった行動に出そうなものかは想像がつく。


(大方、両親を味方につけてからマルグリット様に難癖を付けて、そのまま丸ごと奪い取ろうとするんでしょうね。それでマルグリット様が悲しむ事が分かっていて、ベルナール公爵家に送ってもらうなんて事はあり得ないわ)


 マルグリット様が悲しむくらいなら、クララたち同様に、屋敷で預かり丁寧に保管していた方が百倍もマシだわ。

 それに、今回の事でもし何かローラに難癖をつけられそうになったとしても、ベルナール公爵家と同列であるカノッサ公爵家が相手だと分かれば、いくら馬鹿なローラでも躊躇するでしょう。

 それでもなお、マルグリット様諸共こちらに対して矛を向けてこようものなら、私たちカノッサ公爵家は一切の慈悲もなく、持てる全ての力でもって、ベルナール公爵家と貴女の人生を潰してあげるわ。

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