　今日の四人でのお出掛けは、純粋に二人に楽しんでもらいたいという思いがあるのと同時に、私とクララにはある思惑があるの。今までは学院内でだけ一緒に行動していたため、私たちの仲の良さを学院の生徒たちだけが知っていたわ。だけど、これから先本格的に計画を進めていくに当たり、私たちの仲の良さを色々な人に周知させる必要があるわ。その第一歩が、このお出掛けになるの。そういった考えもあって、今回お出掛けに使用する馬車には、カノッサ公爵家の紋章が入れられているわ。

　今回、公爵家の紋章が入っている馬車を使おうと思っている事をお父様たちに相談した所、寧ろまざまざと周囲に見せつけてきなさいと笑顔で言われてしまったわ。お父様もお母様も、マルグリット様とナタリーさんの事を非常に気に掛けている。さらにナタリーさんの方に至っては、カノッサ公爵家の影の者や人脈をフルに使って、ご実家であるコーベット男爵家にも接触を始めている様なのよね。

　コーベット男爵やそのご家族は、娘が勉学に励んでいる事を喜びつつも、殿下やその側近たちに色々な意味で目を付けられている事に、素直に喜んでいいのか困惑していたそうよ。まあ普通に考えたら、男爵家の娘が王子と恋仲になるかもしれないとなったら、その家族は色んな意味で大喜びするでしょうね。でも今回の場合は少し違う。コーベック男爵たちは、愛する娘が厄介事に巻き込まれていると考えたのかもしれないわね。

〈だからこそ、愛する娘を守るためにもと、お父様やお母様に助力をお願いしたのでしょうね。確かに渡りに船だったであろうし、公爵家の力に娘が守られているのならば、下手に自分たちが守るよりも安全と考えたのも理解するわ。そしてコーベック男爵からナタリーさんを託された以上は、カノッサ公爵家の全ての力を使ってでも、殿下たちから守り抜いて見せるわ〉

　御者を務める執事に一声掛けてから、一人一人馬車へと乗り込んでいく。全員が馬車へ乗り込み終わると、御者が馬たちに合図を出して、最初の目的地である服屋さんへと向けてゆっくりと動き出す。

　マルグリット様とナタリーさんは、両側のガラス窓から王都の街並みをジーッと眺め、目に映る景色を楽しんでいる。二人とも子供の様に瞳がキラキラと輝いており、お出掛けをどれだけ楽しみにしているかが改めて伝わってくる。

　王都の大きく広い石畳の道を馬車はのんびりと進み続け、一軒の服屋の前で動きが止まった。目の前にある服屋は長い歴史を持つ老舗の店でありながら、貴族や商人たち相手だけではなく、一般の人々が気軽に買い求める事が出来る値段の物も取り揃えている店なのよ。店員さんたちの対応も一流のものであるし、何よりも親しみやすい人ばかりなのも、この店の良き所であり特徴ね。お出掛け初心者と言ってもいい二人でも、気負う事なく楽しめるおすすめの店よ。

「さあ着いたわ。マルグリット様もナタリーさんも、今日一日は色んなことを忘れて楽しみましょう」

「そうね、私たち四人で楽しく過ごしましょう」

「「はい!!」」

　私たちは馬車を降りて、ニコニコとした笑顔を浮かべるマルグリット様とナタリーさんと共に、服屋の出入り口に向かって歩き始める。そして、扉の取っ手を握って手前に引き、服屋の中へと突入していったわ。