第12話

 公爵家の本家屋敷において、転生者三人による協力関係が結ばれ、俺だけが分からないままに色々な何かが決定した日から、一ヶ月が経った。あれから週に一日か二日の間隔で、公爵家の本家屋敷にお邪魔しに行っている。その時には、必ず公爵やお兄さん方が屋敷におり、鋭い眼光で俺の行動に目を光らせている。

 イザベラ嬢とクララ嬢とは、あれからも仲良くさせてもらっている。まあ基本的には、女性陣二人が楽しくお喋りしているのを、ただ傍で聞きながら相槌を打っているだけなんだがな。

 お喋りの内容としては、美味しいスイーツのお店や化粧品に関してが六割、魔法に関しての様々な議論についてが二割、そして魔法学院での例の事に関してが、最後の二割だ。イザベラ嬢とクララ嬢からしてみれば、アルベルト殿下や側近たちの動向についてはあまり興味がない様で、積極的に関わる事すら嫌みたいだ。だが、ナタリー嬢やマルグリット嬢の事は大層気に入った様で、俺にあれやこれやと教えてくれる。

 二人から語られたナタリー嬢とマルグリット嬢のイメージは、乙女ゲームの悪役令嬢とヒロインのイメージとは重ならなかった。公爵令嬢と男爵令嬢という生まれについては合致するのだが、人格や性格についての部分においては、特にマルグリット嬢の方が悪役令嬢というポジションから大きく違っている。恐らく原因となっているのは、ローラという、マルグリット嬢の妹の存在が大きいのだろう。むしろ聞けば聞く程、ローラという妹の方が、悪役令嬢に相応しい振る舞いをしている。


「四百九十九、五百‼…………ふぅ、朝の日課終わりと」

(それにしても、二人ともが陽の者だったとは。それじゃあ、この世界が乙女ゲームの世界だと言われても、直ぐには理解出来ないよな)


 朝の鍛錬である、木剣の素振り五百回を終えて、先日のお屋敷訪問時の事を思い出す。俺が二人に、この世界が乙女ゲームではないかと相談した時に、ポカンとした顔をしながら、二人揃って首を傾げられた。そこで語られたのが、灰色の青春を送って来た俺の心を深く抉る様な、青い青春物語だった。

 イザベラ嬢の生前は、大好きな陸上に青春を捧げ、その後は陸上の楽しさを伝えるために体育教師となった女性。社交性が高かった様で、小・中・高・大と友達も数多く、休日もその友達と遊んだりしていたそうだ。そのため、小説や漫画、それにゲームなどの娯楽にあまり触れてこなかったみたいだ。

 クララ嬢の生前は、陸上に青春を捧げた少女の親友であり、水泳に青春を捧げた少女。一時期精神的に悩んでいた時期があったらしく、その時に出会ったカウンセラーの先生に救われた事で、カウンセラーという職業に憧れた。そして自分と同じ様に、悩める子供たちを助けてあげるためにカウンセラーとなった。さらに偶然にも、親友と同じ学校の養護教諭となった女性。少女と同様に社交性が高く、小・中・高・大と友達が数多くおり、休日は少女とよく遊びに出ていた。その事から、少女と同じ様に、娯楽に触れる事が少なかったそうだ。

 何と驚くべき事に、イザベラ嬢とクララ嬢は前世で親友だったのだ。だから、公爵令嬢と男爵令嬢という身分差が大きいはずにも関わらず、まるで親友であるかの様に親密だったのだ。

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