第13話

 朝の日課を終えて、汗を流すためにシャワー室に向かう。俺が在籍している騎士学院には、騎士鎧を着込んでの訓練が多いため、シャワー室や風呂が完備されている。シャワーで汗を流し、身体を石鹸で綺麗にしてから、湯の中に身体を沈めていく。いい湯に身体が温まり、心も身体も癒されていく。


「この素晴らしいものを、先輩たちは体感できなかったとは。さぞや無念であっただろう」


 騎士学院に入学する時に、シャワー室や風呂があるなんてと驚いていた俺に、昔はどちらもなかったという話を親父が教えてくれたのを思い出し、思わず言葉が出てきてしまった。

 アイオリス王国の始まりは、魔法使いたちの集まりによるものからだったそうだ。その言い伝えや伝承の影響から、今でも魔法使いを優遇する方針が強い国なのだ。そのため、騎士の扱いや評価が今も低いままなのだ。そしてそれは、騎士学院という国立の学び舎にまで反映されていた。なので、今から八十年前までの騎士学院には、風呂はおろか、シャワー室まで存在してはいなかったのだ。

 それに対して魔法学院は、設立された当初から施設が充実しており、シャワー室や風呂に関しても、当然の様に完備されていたそうだ。まあ、当時の情勢などを鑑みると、それも仕方なのない事だ。当時の騎士というものは、魔法への適性が低く、魔力量が少ない貴族の子弟がなる職業だったからだ。だがそれは、当時の国王と宰相が考えに考えに抜いた、貴族の血を引く者たちへの救済措置だったのだ。

 しかし、周囲はそんな王と宰相の気持ちを汲み取る事が出来ず、出来損ないや無能者と決めつけた自らの子を、まるで厄介払いでもするかの様に、騎士学院へと入学させたのだ。その事も影響し、騎士学院にはあまりお金がかけられる事がなく、施設の数や質に関しても、魔法学院に比べて大きく劣る形となった。

 王や宰相は、騎士学院が完成した後の視察において、魔法学院との大きな差を目の当たりにし、自分たちの思いが伝わっていなかった事を嘆いたそうだ。


(それにしても、八十年前の王子には感謝しかないな。王子が、当時の王や宰相の私文書を見つけてなければ、今も騎士学院の環境は悪かったままだしな)


 騎士学院の環境を、劇的に改善してくれた王子に感謝しつつ、十分に風呂を堪能した。しっかりと身体から水分を拭き取り、下着と制服を着込んでいく。心も身体もスッキリとし、とても清々しい気持ちだ。今日も一日頑張りますか。

 俺は軽い足取りのまま、自分の教室に向かって歩き始めた。

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