第9話

「ゴホッ‼…………お母様、一体何を⁉」

「ゴフッ‼…………アンナ様‼何を仰ってるんですか⁉」

「え~と………」

「もしかして、どっちじゃなくて、どっちともなの?」

「お母様‼」

「アンナ様‼」


 アンナ公爵夫人は、顔を赤らめながら怒る二人を、微笑ましい笑顔のまま見ている。イザベラ嬢とクララ嬢の二人は、アンナ公爵夫人にいい様に遊ばれてしまっている。二人とも転生者で二度目の人生、俺と違って男性との交際経験もあっただろうに。思春期の子供みたいに動揺しなくてもいいのに。

 それに、二人とも美少女なのだから、直ぐにでも相手が出来る。というよりも、二人とも貴族の娘として生まれたのだから、婚約者候補の一人や二人くらい、幼い頃からいるだろう。


「だって、イザベラは昔から男の子にあまり関心がなかったでしょ?まあ、それは今もだけど」

「ぐっ……‼」

「それに、クララも一年という短い付き合いだけど、男性に関心が薄いっていうのが、見ていて分かっちゃうしね」

「うっ……‼」

「でもまあ、安心しなさい。社交界でも注目度の高い貴女たち二人が、男性にあまり関心がないのだろうと勘づいているのは、私を含めたごく一部だけよ。その一部の人たちも、特に何かをする訳でもなさそうだし、今は放置しているわ」


 アンナ公爵夫人が最後に言った言葉に、少し背筋が寒くなる。最後のあの言葉には、社交界にも影響力のある公爵夫人として、イザベラ嬢の母親として、我が子を思う気持ちが十二分じゅうにぶんに込められていた。

 もしも本当にその一部の人たちが、二人が男性に関心が薄いという情報を悪用し、よからぬ噂を流すなどの工作をし、イザベラ嬢のイメージを下げようと考えようものなら、公爵家の力を揮われて、一気に潰される事は間違いない。カノッサ公爵家の力に対抗出来るのは、同じ地位と権力のある公爵家か、アイオリス王家ぐらいだろう。


「そんな男性に関心のないイザベラが、知り合って間もない男性を屋敷に招待して、自分の部屋で談笑するっていうのよ?それも、同じく男性に関心のないはずの、クララも一緒になって。だから私たち皆、心底驚いたのよ?」


 確かにアンナ公爵夫人の言う様に、男に関心がないはずの二人が、知り合って一週間程度の男をいきなり自宅に呼んで、自分の部屋に入れるなんて、家族からしたら驚くどころの話ではないだろう。


「それで、全員で押しかけても迷惑になるから、私が家族を代表して、付き合っているのかを確かめに来たのよ。でも二人の様子から見るに、今はまだ、友達って所かしら?」

「そ、そうです。ウォルターさんとは友達なの」

「……アンナ様、そうなったらそうなったで、ちゃんと報告はしますから」

「クララ⁉」

「イザベラ、貴女も分かってるでしょ?」

「…………そうね」

「じゃあ、二人はそういうつもりって事で進めていいのね?」

「「はい」」


 クララ嬢とイザベラ嬢の二人は、一体何が分かっているのだろうか?三人の会話に入っていけず、置いてけぼりのままに話は進む。そして、色々と俺だけが分かっていないままに、今の会話の中で、二人の何かが決定したみたいだ。

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