第12話新入生交流会(8)


生徒手帳の最後のページに隠された袋とじ。

学園長曰く、そこに記載されているという今年度から追加された新校則。


どんな事が記されているか。

それは自分達のこれからの学園生活でどのように影響されるのか。


皆が同じ思いを抱いているに違いない。


正常に動いていた心臓の鼓動が早鐘を打つように速度を上げる。


震える指先。


額には汗が滲み、頬を伝う。


口の中は乾き、水分を欲していると訴える。


ドクンドクンと鳴り止まない鼓動を感じながら池明太は隠された最後のページをゆっくりと開いた。

そこに記されていたのは…




『評価ポイント制による1年毎に現在所属するクラスからの昇格チャンス』


『評価ポイントは以下の通りになる』


『その1、容姿による評価』


『その2、成績による評価』


『その3、学園に影響を与える貢献度評価』


『その4、周りからの印象評価』


『その5、シークレット評価』


『それらを総合評価し、所属クラスを決定するものとする』



そのような文字が色濃く記されていた。


「……ふむ。大体の者が読み終わったみたいだな」


学園長は周りを見渡し、首を縦に振ると学生手帳に視線を落としている新入生達に声を掛ける。


「新校則について質問がある者は今、この場で発言するように」


腕を前に組み、そのポーズによって大きな胸が更に強調性を増す。


するとぽつりぽつりと手を挙げる生徒が現れる。


それに気付いた学園長は手を挙げている新入生に視線を移し、質問を促す。


「では、手を挙げているそこの最前列の男子生徒。質問を許可する」


「あ、はい。えっと、ここに書かれている新校則の評価基準ですが、各評価項目の振分けはどのぐらいになってますか?」


恐る恐る質問を口にする男子学生。


その質問の答えを聞き逃すまいと辺り一面静寂に包まれる。


学園長は男子学生の質問を理解し、静寂に包まれた空間を支配するかの様に言葉を発した。


「うむ。良い質問だ。だが、その質問に答えるわけにはいかない。何故だか分かるか?」


質問に質問で返す学園長。


その展開を予想出来ていなかったであろう男子学生は困惑し、しどろもどろな表情を露呈していた。


「…え、えと、わ、わかり…ません…」


「まぁ、そう怯えるな少年。その質問に答えてはやれないが、1つだけ言える事がある」


「…………」


再び沈黙が訪れ…


そして学園長の言葉がその沈黙を破る。



「評価項目3を思い出して欲しい。学園に影響を与える貢献度…。それは学園にとってプラスとなる行い。ただそれは、誰かに言われたからやるのではなく、自発的に動き、それを成す事で意味がある。幾つかある評価項目の振分けを知ってしまえば、振分けのいい評価項目だけに集中的にやってしまおうと偏ってしまう生徒が後をたたない。つまり、それは生徒1人1人の本当の姿が見えなくなる。誰にも言われずに率先して事を成す。その本来の1人1人の人間性を私は評価したいのだ。だから、評価項目の振分けについては答えられないのだ。私の言っている意味が分かったかな?」


学園長の目は真剣な輝きを放っていた。

質問をした男子学生の心に届くように、その場にいる新入生全員の心に染み渡るように。


真剣な思い、言葉は必ず届くと信じて疑わない。

言葉こそ重みを含んではいるが、学園長の表情は多分…いや、間違いなく優しく澱みすら含む隙すらない晴れ渡った空の様にその場にいる新入生全員に向けられていた。





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