第10話新入生交流会(6)
「言葉より実践で教える方が分かりやすいだろう。まあ、そこで見てるがいい」
右手をひらひら振りながら制服をたなびかせ、上白糖が先程声をかけた女子学生の元へ向かう。
黒縁眼鏡は背を向けている女子学生に後ろから近付き、立ち止まった。
その気配に気付いた女子学生が振り返る。
「……………」
「…………?」
しかし沈黙が場を支配する。
ただ無言で向き合って、微動だにしない黒縁眼鏡に、首を傾げる女子学生。
「………あれ?おかしい…普通なら選択肢が出てくる筈なんだが…何故出ない…。バグか?…ちっ、糞ゲーすぎる。バグ処理ぐらい確認しとけっての。仕方ない、今までの経験を元に、最適なセリフを、導きだすか」
何やらぶつぶつと怒りを露わにしながら呟いている黒縁眼鏡は仕方ないと気持ちを切り替え、顔の表情をキリッとさせながら再度口を開く。
「君が好きだ!!(彼女はいるが)付き合ってくれ!!」
「いやぁぁぁぁーーッ!!!助けて聖也君ーーッ!!」
心底不快な表情と絶叫と共に右から左へと物凄い勢いで拒絶の張り手を黒縁眼鏡の顔に繰り出す。
「ぴぎゃっ!!!!」
その一撃を受け流せず直撃する黒縁眼鏡。
身体が宙に舞う。
「また貴様らかーーーーッッ!!!」
さらに悲鳴を聞きつけた聖也が黒縁眼鏡の懐に潜り込み、無防備な股間へと追撃の蹴りを叩き込んだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッッッ!!!!」
体育館に黒縁眼鏡の断末魔が響き渡る。
無惨に倒れ散りゆく黒縁眼鏡を青い顔で傍観する池明太達。
「ここには変態しかいないから、僕の側を離れないでね」
その側では聖也が女子学生の肩を抱き寄せ、甘い言葉を呟いて、二人揃ってその場から離れていく。
そして違和感に気付いた池明太は涙を流しながら股間を抑え、両足を丸め悶絶している黒縁眼鏡の側へと近寄り、違和感の正体を口にする。
「……大丈夫じゃないのは見ていて分かるから何も言わないが、一つ聞いていいか?」
「…………うぅぅ……」
池明太の問いかけに返事はないが、呻き声だけが聞こえてくる。
その呻き声を都合よく肯定と認識し、核心の一言を口にする。
「…お前、最初女の子を『攻略』って言ってたよな?あれに違和感があったがその時はまだその違和感の正体に気付いていなかったが、女子学生に声を掛けてた時、『選択肢が出る筈』って言葉でようやく違和感の正体に気付いたよ。普通、彼女を作る時に『攻略』って言葉は使わないよな。『女の子を落とす』ならまだ分かる。つまり、俺が言いたい事は…」
未だ股間の痛みに悶える黒縁眼鏡に池明太は一瞬の間を置き、ゆっくりと口を開く。
「…お前、彼女持ちって言ってたが、あれって実在する彼女か?いや、こう言えば分かりやすいか。お前が言う彼女とは『2次元』の彼女…それもギャルゲーのヒロインだろ?」
「…………悪いか…」
「…え…?」
「2次元の彼女の何が悪いってんだぁぁーー!!」
「悪いわぁぁぁっ!!!俺の信頼とプライドを返せぇぇぇ!!!!」
以前プライドを捨てて黒縁眼鏡に縋りついた上白糖が怒りを露わに瀕死の状態の黒縁眼鏡の股間に鉄槌の蹴りを叩き込んだのだった。
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