第2話

小説『痛快!透析奮闘記』2

1、元気だったはずが、一転


1週間後。橋本は、再度、『ひかり内科病院』に足を運んだ。飯村医師の指示通り病院にいた。

すぐに検査室へ済ませ腎臓内科。

「腎臓が悪いって言われてもな。おれ、なんともないしな。困ったもんだ。

何かの間違いじゃ」。

まだこんなことを言っている。おめでたい男だ。

10分後に、呼ばれた。

そこには、検査データに目をやりながら、渋い表情の飯村医師。

「橋本さん。残念ですがすぐに入院してください。

腎臓が悲鳴をあげています」。

「あらら。本当ですか。いきなりですか。そんなに悪いんですか」。

橋本はさすがにうろたえた。

「はい。良くありません。すぐに治療に専念しないと。大変なことになりますよ」。

飯村医師は、真剣だった。

それを察知した橋本。素直になった。

「そうですか。分かりました。あす入院します」。

お調子男・橋本も意気消沈。

翌日、身の回りのものを大きなバッグに詰め込み、タクシーで病院に。

入院受付でまたあの苦々しい質問だ。

「きょう、ご家族の方は」。

「一人で来ちゃ、まずいのかい」。いつものように心の中で叫んだ。

が、口から出たのは、「私、一人身ですから」。


そんなこんなのあと3階の病室に案内された。303号室。

間もなく、看護師がきた。

「橋本さん、きょうから入院ですね。

一応、入院生活についてご案内します」と手元の資料を説明した。

「以上です。じゃ、お熱と血圧計りますね」。

手早く仕事をこなして戻った。

次に主治医の飯村医師。

「病気の現状を説明します。まず、クレアチニン値が7です。

5以上が透析の目安ですのでオーバーしてます。

すぐに透析を始めましょう。

血糖値も高目です。これは食事療法と投薬で改善します。

明日から透析の準備に入ります。それと、摂取カロリー、水分を制限します。看護師に、その説明をさせます」。

飯村医師は滑らかな口調で報告し、戻った。

ややあって、看護師が資料を手に、再度、やってきた。。  

橋本は、ベッドに腰かけていた。

「橋本さん。もうすぐ夕食ですが、カロリー制限があります。

1日1600キロ㌍です。水は自由に飲めません。

1日に飲める量が決まっています。700CC以下です。

これは腎臓に負担をかけないためです。

平均すると毎食時に飲めるのは200CC。薬を飲む際の水も含めます」。康護師は事務的に説明した。


自由に水を飲めないとおっしゃいましたか」。

「はい。そう言いました。なにか」

「いや。“なにか”じゃなくて」。心の中で絶叫する橋本。

でも、実際は、困った表情で、すがった。

「本当ですか。この暑いときに。水を飲めない。私、どうしたら」。

「あれ、先生に言われませんでしたか?」。

「そういえば・・・。このことでしたか。」

この看護師とやりあっても良知(らち)は開かない。このへんで止めた。

看護師は、何事もなかったように、平然と戻った。

「700CCって、どのぐらいだ。大変なことになったぞ。こりゃ」。

橋本は、水分制限の本当の苦しさは、まだ知らなかった。

7月15日、盛夏。  

                   (つづく)     





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