第2話 貴公子

正式にバルザック社長となった内野社長にとって、中央道高井戸総合ターミナル物流センターの警備を受注出来なかったことは、出鼻を挫かれた思いがした。10億の警備料金は左程問題ではない。売上に占める割合は微々たるもの、しかし、その宣伝効果を大同警備にさらわれた事が癪だ。

 また、遠藤専務の急な退任が腑に落ちない。退任を機に、大同警備は纏まりを見せている。どう考えてみても、社長とその取締役連中での仕業ではないだろう。大株主の大川か、それも違う、他に誰かいるのか。

 最近、大同警備で、自見という倉庫係が取締役に就任したと、業界で専らの評判だが。それを聞いた時、大同警備社長も少々頭がおかしくなったか、と逆に心配したものだが。

 

 探りを入れなければならない。調査部の今野部長に、大同警備新取締役に就任した自見について調査するよう命じた。


 王道を歩いている私の、邪魔をするものは、何人たりとも容赦しない。



 

 *   栗木夫婦


 自見は、栗木をK市総合ターミナル物流センター警備隊から異動させ、本社備品庫室係とした。備品庫室係は時間にあまり制約されない、いざとなれば美紀だけでも大丈夫、栗木は実直だけではなく、融通性も持ち合わせている。先の、遠藤専務とバルザック貴公子の1件で証明済みだ。これからも力になってくれるだろう。


 先日、自見の取締役就任を祝って、我が家に来てくれた。嬉しいことに、順子と所帯を持った、その報告も兼て。本社異動に備え、母方の縁戚の家が空き家となったので、栗木夫婦に住んで貰うことにした。良子にとって、順子は良き相談相手になってくれるだろう。



 *    幸子と大場管理センター長、図師と朋美の合同結婚式

 

「図師さん、大場です」

「お久しぶりです、お元気ですか」

「ご相談したいことがあるのですが」

「では、此処で如何でしょうか」


 図師は、新任の教育担当次長になって毎日忙殺されていた。しかし、小樽営業所での惨めな境遇から一転し、このような陽の目を見ることが出来ようとは想像だにしなかった。母から、自見さんの懐に飛び込みなさい、もし素直に受け入れてなかったら、今の自分は。


 相談の内容は思いがけないものだった。それは、合同で結婚式を、と。真地間の母、幸子から、その提案を受けたときは、大場も、何故、幸子さん、お母さん、それで良いのですか。二人から、兄も、一郎もそれを望んでいると思います、いつまでも過去を引きづっていないで、と。

 

 図師は、朋美と相談して見ます。朋美も、それを受け入れた。そして、その報告を、図師と大場は、自見に。

 

 二組の夫婦は神前で誓いを述べたあと、合同披露宴に揃って席に着いた。大河原常務夫妻、自見夫妻、栗木夫妻、大同美紀、由香、図師の母敏子、嵯峨美智子、佐藤愛、楚辺夫妻、大場咲とその娘、水野、それと大場家両親親族、上司、友人併せて7名、朋美の両親とその親族7名、の総勢30名、パーティー形式で、和やかに進んだ。堅苦しい挨拶は省略し、簡素な中にも、一つの家族のように打ち解け合った。

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