カクヨムオンリー番外編

オトナのお人形と色ボケ魔女 序

「拝啓、親愛なるジェシカ・シモンズ様。冬の寒さが一層厳しい頃になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。肌寒いとまた妙な男を連れ込んでいるのではありませんか。もう妙齢というにはちと厳しいお年頃なのですから、火遊びはほどほどになさいませ。


 私の知り合いにロボット博士がおりまして、その男が面白いロボットを持っていたので貴女のために借り受けました。貴女も軍にいらしたのでご存知でしょうが、慰安ロボットやセクサロイドと呼ばれる種類のロボットの男性版です。ですが軍にいるようなロボットより賢く、言語的なコミュニケーションがとれ、人間ができることはだいたいできるそうです。製造した博士は執事にだってなれると豪語しておりました。執事として五十年勤めあげた私に向かって! 


 無礼な男ですが彼の腕は確かです。いかがわしい男どもと遊びまわるぐらいならいっそロボットを雇ってはいかがでしょうか。敬具、貴女の将来を心配する元執事ロバートより」


女は手紙を読み上げると、ため息を吐きマシタ。


「あのクソジジイ」


口の悪いこの女はかつて魔法戦士として王国軍に在籍していマシタが、退役後は年金と両親の遺産で食いつなぐ日々を送っていマシタ。ジェシカことワタシの所有者ジェシーは、奔放な性生活を定年退職した執事に心配され、押しつけられる形でワタシを手にしたのデス。


「ハジメマシテ。ワタシハライト研究所製男性型セクサロイドD1。オミシリオキヲ、ジェシカ様」


ワタシの挨拶に、ジェシーは少しだけ興味を惹かれたようデシタ。赤茶の髪をいじりながら、首を傾げマス。


「賢いのは本当のようね。軍にいたセクサロイドよりお話ができそう。アイツら朝も昼も夜もコンニチハだったもの。名前も覚えられないし」


「他ノロボットノコトハワカリマセンガ、メモリガ保存デキル限リ学習ヲ続ケマス。名前モ挨拶モモット上手クナリマス」


「ふーん」


「オ手紙ニアッタ通リ、人間ニデキルコトハタイガイデキマス。力仕事モ得意デス。キットオ役ニ立チマス」


「ふーん」


ジェシーはシゲシゲとワタシを観察していマシタ。


「ねえアンタ舌があるの? 」


「アリマスヨ」


「見せて」


「エ」


「ほら、あー」


ジェシーが大きく口を開けて見せマス。赤い舌と整った歯並びがよく見えマシタ。


「アー」


仕方がないので屈んで口を開きマス。


「すごーい、本当に舌がある。ね、これどのくらい伸ばせる? 」


「ソレホド長クハ……鳩尾アタリマデデス。味覚ハアリマセン」


「おもしろ。純粋なるご奉仕用というわけね」


「ソウイウロボットデスカラ」


「不満そうね」


「ソウイウワケデハアリマセンガ、ワタシハ振ラレタ腹イセニ作ラレタロボットデ、製作者サエワタシニ需要ガアルノカ疑問ヲ持ッテイマシタカラ。見タ目モ人間ニ近スギテ不気味デス。愛嬌ノナイ愛玩用ナド誰ガ欲シガルトイウノデショウ」


ジェシーはそれまでの笑みを引っ込め、真面目な顔つきになりマシタ。


「それは確かにそうかもしれないわね。でもアタシはアンタのこと面白いとは思ってるわ」


ジェシーは光の加減で青にも灰色にも見える不思議な色の瞳をしていマシタ。彼女の正確な年齢をワタシは今も知りマセン。黄金比や美しいとされる女優の顔など、美しさに対する基準を得た今、彼女が際立って美しいかといえばそうではアリマセン。


 しかしながらジェシーには周りを惹きつけてやまない何か、例えるなら引力のようなものを持っていマシタ。彼女にとっての幸せには必ずしもつながらない魅力でしたガ。


「それにアンタはロボットだもの。卑屈になる必要はないわよ。そのへんの男よりずっと使えるからいいじゃない。見た目もアタシは好きよ。夜中に目があったら叫ぶかもしれないけど」


「ソンナモノデスカ」


「そんなもんよ。あとイイこと教えてあげる。女の性欲は必ずしも顔のいい男には向かないの。野獣を手懐けたいこともあるし、異形に好きにされたいときもあるワ」


ジェシーは再び微笑むと、立ち上がってワタシの肩に手をかけましたマシタ。


「さ、お手並拝見よ。寝室は二階」




✳︎✳︎✳︎




「そういえば、貴方ってどのくらい値段がかかるの? 」


「コノ値段ヲ分割払イデス」


ワタシが値段を提示するとジェシーは苦笑いしました。


「働かなきゃ払えないし、最低でも二十年はかかるローンね」


「働キタクナイノデスカ? 」


ジェシーはそれには答えず、裸のままガウンだけ羽織ってウロウロしていましたが、はたと何か思いつき、にこやかにこう言いマシタ。


「そうだ。アンタが自分で稼いできてよ」


「カマイマセンガ……資材運ビトカ交通整理デスカ? 」


「なんでセクサロイドがそんなことすんのよ」


悪戯っ子のような可愛らしい顔で、とんでもないことを言う女もいたものデス。


「街頭ニ立テト? 」


「そんなことしなくていいわよ。会員制クラブにするの」


「ハア」


「大丈夫。金持ち女にはアテがあるの。ルールは三つ、何がヨクて何がダメかコトに至るまできっちり契約書を作ること、依存してくる女とは関係を断つこと、未成年には手を出さないこと。これでどう? 」


「ワタシハカマイマセンガ……」


「アンタさっきアタシのこと分析してたでしょ。ロボットらしくサンプルはたくさんあった方が良い、とか思わない? アタシはビョーキさえうつされなければいいわ」


行為ごとにモノの廃棄処分ができますし、何より取り外して滅菌消毒ができますから、セクサロイドが性病を媒介することはほぼアリマセン。ワタシはジェシーが元執事にナニを心配されていたのか手に取るようにわかりマシタ。


「あとそうだ、舌出して」


ジェシーはパチンと指を鳴らしました。


「魔法でちょいと細工をさせてもらったわ。魔力機関で媚薬が作れるようになったはずよ。水を飲んでみて」


半信半疑で水を飲むと、舌に吸われた水が魔力機関に溜まる感覚がありマス。


「魅了魔法を教えるわ。こうやるのよ」


ジェシーは軽くウインクをしマシタ。ワタシの魔力機関が反応し、舌が軽く湿りマシタ。


「……ジェシカ様、アナタナニモノデスカ? 」


「ビッチでウィッチな退役軍人よ。ジェシーと呼んで」


「誰ガウマイコト言エト」


ワタシが彼女の手に軽くキスをすると、ジェシーは満足げにワタシの頭を撫でマシタ。こうしてワタシは、奇妙なご主人様と共同生活を送ることになったのデス。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る