第53話 ロボットと大団円 序

「その節は大変失礼なことを言いました」


ケイスケさんが頭を下げています。相手はノリコ・ササヤマ様。チャーリーの友達、ケンのお母さんです。


「いえいえもういいですよ。これ、些細なものですが」


ノリコ様は菓子折りをケイスケさんに渡します。


「わざわざありがとうございます」


「……それで、今回は宮坂さんの奢りってホントですか? 」


「え、ええ、まあ」


「ホントに? 」


「ホントに」


「うちの子、食べ放題しか連れて行けないくらい食べるんですけどホントに? 」


「に、二言はありません」


ノリコ様は瞳をキラキラさせています。


 ここはエディーのアルバイト先であり、ケイスケさんの旧友であるキンジョーさんが経営してらっしゃる、『創作料理 ダイニング・キンジョー』。今日は貸切です。


「よっしゃ、リキ、セイラ! 今日は好きなだけ食べれるぞ! 」


「やった〜! 」


ケンの言葉に彼の弟妹が仲良く拳を突き上げます。


「うちでは好きなだけ食べてないみたいなこと言わないの! 牛みたいに食べてるくせに。ほらちゃんと宮坂さんにお礼言いなさい」


ノリコ様が注意しました。


「スミス子爵、本日は、ありがとうございます」


微妙に揃っていない感謝の言葉を口にしたのは、ケン、リキ、セイラのササヤマ家三きょうだい。今日はお父さんも含めた一家全員でおこしです。


「あらノリ! 久しぶり」


「ベス! 」


テッドの家族はお母さんだけ来ています。


 子どもは子ども、大人は大人で固まってテーブルにつきます。


「全メニュー制覇しようぜ! 」


そんな声が子どもテーブルから聞こえてきたので、ケイスケさんの笑顔が少しだけ引き攣りました。どうやらチャーリーがけしかけているみたいです。今日の集まりは、ケイスケさんのお財布には厳しいことになりそうです。


「みやっさーん、現局長シメてきてくださーい」


開口一番、物騒なことを口にしたのはケイスケさんの元部下のキム。ケイスケさんが罷免されたことでやって来た新しい上司とソリが合わないようです。元部下はキムを含めて五人も来ています。めいめいお土産を差し出しながら、合言葉のように新しい上司への愚痴をこぼします。


「俺に言われても困るよ」


ケイスケさんは呆れ顔です。


「だって、だって〜。ただでさえキツいのに上司に仕事教えなきゃいけないなんてマジ勘弁っすよ〜。聞いてくださいよ〜」


アルコールは入ってないはずですが、キムは絡みたい気分のようです。


「ケイスケさん。新しいお客さまの応対は私がしますから、キムのお話きいてあげてください」


「ありがとうD2」


ケイスケさんは大人テーブルの方へ引きずられていきました。


「D2は誰か呼んだの? 」


休憩時間に入ったエディーが厨房から出てきてそう言います。


「ええ一人お友達を。エディーは? 」


「僕はちょっと頼まれて呼んだ子とあと二人ほどいるよ」


「あら誰でしょうね。家出期間お世話になっていた方は呼びました? 」


「ああ、キンジョーさんのところでお世話になってたから、厨房にいるよ」


「あとでそのことも含めてお礼しなきゃいけませんね」


「そうだね」


そんなことを話している間に、私の待ち人がやってきました。ブルネットのポニーテールに白いブラウスのよく似合う少女です。


「ソフィー! 」


「D2! お招きいただきどうもありがとう。あたし来てよかったのかしら? 」


「ご主人が誰でも呼びなさいっておっしゃってくださって。貴女の顔が浮かんだんです。来てくれてありがとう。一人ですか? 」


「ええ」


「ではあちらのテーブルでいいですか? 」


私は子どもテーブルの方を指しました。


「かまわないわ」


案内のために束の間、エディーのそばを離れると、ソフィーが耳打ちしてきました。


「小指の指輪をくれたのはあのエルフさん? 」


今日はエディーはカツラをかぶっていません。私はソフィーの観察眼に、無い舌を巻きました。


「エルフではなくハーフエルフです。でもどうしてわかったんです? 」


「女の勘よ。あとで恋バナしましょうね」


エディーが呼んでいたのは、ハーフエルフ会議の二人でした。もう一人は少し遅れてくるようです。そう連絡があったので、先に食事をはじめていることになりました。


「えー、お集まりの皆さん。本日は私の再就職記念パーティーにお集まりいただき誠にありがとうございます。えー。ここの店は、まあ私の友人の店なんですが、なかなか美味しい料理がありますので、ぜひお楽しみください」


少し緊張気味にケイスケさんが挨拶をします。そうなのです。今日はケイスケさんの再就職を記念して『どんちゃん騒ぎをする会』なのだとケイスケさんがおっしゃっていました。

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