第51話 ロボットと性愛と恋について 破
「おや指輪デスカ? 」
「お見事」
この辺りの勘ともいうべき絶妙な頭の回転は、やはり経験値がものをいうのでしょうか。
「D2は人間から好意を寄せられて困っている、とこういうわけデスネ」
「いや必ずしも困っているわけではないのですが、まあ、そういうことになりますかね。D1はどうしてそう物分かりがいいのです? 少しだけ羨ましいです」
私は最近、空回ってばかりなので。
「それは私が性愛と恋の専門家だからデスヨ。それで? 愛し合うために改造してこいとでも言われましたか? 」
「そんなことは言われていません……言われてないから、わからないのです。何を求められているのか」
「ホウ」
D1はわずかに目を細めました。
「指輪を見せてもらってもいいデスカ? 」
「どうぞ。……他言無用でお願いします」
「モチロン」
D1は小箱の蓋を開けて中身をのぞきました。デザインではなく、指輪の種類をみているようです。
「……D2は指輪の意味を知っていマスカ? 」
「左手薬指は結婚指輪、というやつですか? 異世界人の」
「異世界人由来のものと土着のものが混ざって、様々な意味が生まれていマス。中指は魔力に関係する指で、人差し指は家系を表す、とかこの辺りはたしかこの世界の発想デスヨ」
そういえばエヴィルスレイヤー少年は右手の人差し指に指輪をつけていました。
「小指につける指輪はどのような意味が? 」
「先ほど話したように様々な意味があって一概にこうだということはできませんが、右手の小指につける場合は一途な愛、左手の場合は幸せを逃さないように、という意味がありマス。愛されてマスネ。一途に貴女のことを愛しています、ともとれますし、貴女という幸せを逃さない、ともとれマス」
「……エルフ! エルフの言い伝えはどうなんですか!? 」
「何故エルフ? 確かエルフにとって小指は運命を約束する指デスヨ」
「そ、そうですか」
D1は口角を上げました。
「照れることないじゃないデスカ。どうやらそのままのD2がお好きな変わり者のようですし、受け取れるものは受け取りなサイ。愛は素晴らしいものデスヨ」
「変わり者って、どういう意味ですか」
D1はペロリと舌を出しました。
「オヤ失敬。ワタシはD2が何を悩んでいるのかわかりませんヨ」
うまく話を逸らしましたね。でもD1のいうこともわかります。
私にデメリットは何もなく、このように放っておいてもエディーは何かと私のことを気にかけてくださって、私がいつまで経っても指輪をしないのは無礼というか不義理なのかもしれません。しかしながらデメリットがないから、メリットしかないから、そういう理由で受け取っていいものなのでしょうか。愛って。
「……前の職場の子に偶然会いました」
私はソフィーのことをなるがけ簡潔に話しました。
「そんなわけで、今はD1のことが少しわかります。D1がメモリを残している意味。今のメモリ、消したくないです。また一からやり直しなんてそんなのは嫌です。もらった指輪をつけて、おとなしく恋人面してればきっとエディーは満足してくれる、私の自我が長く存続する可能性が高くなる、そう考えてしまって。打算は得意です、仮にも人工知能なので。人間になりたいとは思いません、ロボットだからできたことがたくさんある。でも私はやっぱり愛や恋の対象になるには……やはり人類は人類と恋愛をした方がいいのですよ」
何故かD1は大きな欠伸を一つしました。何度もするので、つい私もつられて欠伸をしました。
「ワタシたちにはこのように欠伸がうつりますが、人間の中にはこれがない人間もいるって知ってマスカ? 」
「サイコパス、と呼ばれる人たちのことでしょう? 」
D1は頷きます。
「そう。何かととやかく言われがちな彼らですが、戦争で活躍した人の中には多いと言われていマスネ」
「何が言いたいんですか? 」
「先を急いではいけマセン。つまり共感能力の高い人間から見れば、サイコパスよりワタシたちの方が人間に近いのです」
「なんてことを……」
今のはかなり問題のある発言ではないでしょうか。ロボットが本分を離れ、人間になりかわろうとしているかのような発言です。
「だから偉いとかそういうことを言いたいわけではないデスヨ。誤解しないでくだサイ。でもロボットが認識しているよりずっと、人間はロボットを擬人化してとらえていますし、親愛の情を持っています。それこそ体を許すくらいには」
D1は自らを指差しました。
「ワタシが売り物にしているのは肉体関係だけデス。そういうロボットなので当たり前デス。でもワタシに恋愛に近い感情を持つご利用者様はたくさんいるし、嫉妬や独占欲を持つ方もいマス。人間と恋愛した方がいいというのは正論ですが、大切なことが見えていないのデス。彼女ら彼らは何故ロボットに恋をしたのデスカ? 」
何故? 何故ってそれは、
「都合がいいから、欲望を叶えてくれるから、ではないでしょうか? 」
D1はまた、口角を上げました。
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