第45話 ロボットと大事件 破

「暴行事件って、気に食わない人を殴ったとかそういうことですか? というかケイスケさんが加害者でいいんですよね? 」


キムは文字通り頭を抱えて言いました。


「殴ったなんてカワイイもんじゃないよー! 夜襲かけてバイク盗んでそのまま突っ込んでドッカンドッカンだよー! 長いこと部下やってたし、元ヤンなのは知ってたけどさ〜。あんなガチガチのマジモンの暴の走の族だとは思わないじゃん。残業からヘロヘロになって帰って昏睡してたら鬼のような着信で起こされる身にもなってよ〜」


ああ、それはもう本当に暴力事件です。というか暴の走の族とはどのような民族なのでしょう。


「それで、ケイスケさんの処遇はどうなるのでしょうか? 」


「まあ、罷免はもうされてるし、異世界人に司法は厳しいから爵位も怪しいかも」


「爵位も!?  」


それは少し行き過ぎでは。キムったら悪い妄想をしすぎです。


「夜襲かけた相手が悪すぎなんだよ〜。ただの伯爵じゃないんだもん」


「誰なんですか? 」


「次期王太子妃がでること確実のノースマウンテン公爵家の後ろ盾も厚い、社交界の華、デモンキラー辺境伯家の長男」


…………。


「えっと、それって本人はすごくないですが、後ろ盾が強力ということで……もしかしなくてもものすごくまずいのでは? 」


「うん! 」


流石の私でも、このキムの笑顔が本当の意味の笑顔でないことはわかります。


「局長は今頃留置所かな」


「逮捕されたのはいつですか? 」


「昨日。朝、逮捕されたって知って。ついでにスピード罷免されたことも知って。ご家族に連絡しようとしてお屋敷に通話かけても応答なし、変だぞーってなってワタワタして、エドワード氏とやっと連絡がついて、今だよ」


「ケイスケさんが事件起こすまでのこと、教えてくださいませんか? 」


「え〜っとね〜」


キムが話したのは大体このようなことでした。キムの話はあちこちに飛んでわかりにくいので私がまとめてお送りします。




✳︎✳︎✳︎




 異世界人材管理局はその日も大忙しでした。


「はいはい、こちら異世界人材管理局です」


「その件については裁判所に……」


「なに夜逃げ?! 」


通話が鳴り止むことはなく、相談者との面会もひっきりなし。そんな中、局長室に呼び出し音が響きました。


「はい、異世界人材管理局です」


「コチラハデモンキラー辺境伯家」


「はい、少々お待ちください」


受話器の向こう側から聞こえてきた声は人工知能のものです。エヴィルスレイヤー家もホンケなる人工知能が当主代理としてスパイダーに指示を出していましたが、近頃はこういうことも珍しくありません。キムから通話を引き継いだケイスケさんは、その人工知能と小一時間ほど話していました。


「あの〜局長」


通話が終わった頃を見計らって、キムが声をかけます。


「なんて言ってました? デモンキラー家」


「うちに求人を出したのに応募が来ないらしい」


「当たり前っすよ! だってあそこ、求人の内容と業務内容が全然違うんですもん! まともな相談員なら薦めませんよ」


キムはそう報告しました。キムによると、デモンキラー家の求人は王都にある別宅勤務と書いてあるのに領地で働かされたり、給料が未払いの上になかなか辞めさせてもらえなかったり、まあ酷いものだとか。


「ああ、あそこか。担当が人工知能に変わってて気がつかなかった。前は高圧的なご老人だったからな」


「多分、その担当が引退するタイミングで人工知能入れたんすね」


前の使用人採用担当だったご老人とやらはキムも覚えがあるそうです。典型的な頑固ジジイ、とキムは表現しました。


「人工知能いわく王都の別宅にいるご長男とやらがたいそうご立腹らしい。なぜ我が家の使用人の頭数を揃えられないんだ、とな。転生者でも転移者でもいいから使用人を雇いたいと言ってきた」


「知るか、バーカ! って言いたいっすけど無理ぽよですよね〜」


「無理ぽよだ」


二人は揃ってため息を吐きました。そんなこんなしている間に昼休みになりました。


「午後いちで説明に行くぞ」


「うっす」


お昼ごはんを食べながら、キムはケイスケさんに愚痴をこぼしていました。


「局長、聞いてくださいよ。今担当してる元JKキツいんすよ」


「キツい? 」


「自分はパパ活でパクられかけたくせにこっちの世界の人のこと、ちょ〜う馬鹿にしてて。デモンキラーにメイドとして突っ込んでやろうか」


キムいわく異世界人の中には、こちらの世界にある科学技術は全て異世界由来のものと勘違いして、あるいは差別的な人々への反動として、こちらの世界や王国の文明そのものをコケにしている人もいるのだとか。それも一人や二人ではないらしく、異世界人材管理局は難しい立場にいるそうです。勤め先で少しでも嫌なことがあると、仕事を紹介した管理局のせいにしてくる人もいて、自らも異世界人なのに異世界人が嫌いになりそうな時もある、とキムは語ります。チャーリーの友達の母親なんていう割と遠い知り合いに、ケイスケさんが異様に突っ掛かったのも、そういう人たちの姿と重なったからでしょう。突っ掛かられた側はとんだ災難ですが。


「冗談でもそういうことを言うな。しかしパパ活でパクられかけたって、こっちの世界でか? 」


「そうっすよ。ことの重大さがわかってない上に、こっちの世界の人はみんなロリコンの馬鹿だと思ってるから会話になんなくて」


「たまたまこっちの世界で最初に会ったのがロリコンの馬鹿だったんだろ。だがやらかしてることはかなりまずいな」


王国では『人間の』売春は一切禁止です。未成年だろうとなんだろうと厳罰に処されます。誰も口にはしませんがこの法律の裏側にはロボット製造の最大手YKカーペンター社はじめ複数の大企業が関わっている、と言うのは有名な話。YKカーペンター社の裏面にして最大の収入源はロボットによる性風俗産業、すなわちセクサロイドなのです。つまり大企業のシマを荒らすと大変なことになる、とそういうわけ。ちなみにYKカーペンター社の表面の最大事業はあのスパイダーの原型にもなった軍事ロボットたちです。


「異世界やばい、異世界の人はヘンタイばっか、異世界の現地人なんて野蛮人っていう固定観念あるからこっちの世界に対する敬意ってモンがないんですよ。だからあっちでは大人しい奴でも平気で犯罪だのなんだのやる。そしてそういう奴らがクローズアップされてまともなぼくたちが割りを食う。ムカつきますね〜」


キムがここでいう異世界とは私たちの住んでいる世界のこと。当たり前のことですが、彼らからすればこちらが異世界なのですね。


「だいたい元とはいえ高校生なんだから勉強しろ勉強! あのチャラチャラした感じとかカレピがどうとかの話ぶりからして偏差値ひっくいバカ高校でしょうがね! だいたい高校生から彼氏彼女いる奴ってなんなんですか?! 勉強してないんすか?! 」


キムとしては自分が高校時代を勉強に捧げたひがみからくる発言だったそうです。ですがケイスケさんはそう取りませんでした。


「そういうバカ高校さえ卒業できなかった奴がここにいるがな」


こうしてギクシャクした二人は、ケイスケさんが夜襲をかけることになるデモンキラー家へと向かったのでした。ケイスケさんの犯行、キムのせいじゃないでしょうね?

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