第44話 ロボットと大事件 序
「Hello, world!」
音声認識機能を起動します。カメラアイを起動します。視界を認識します。再起動完了。メモリに接続します。動作正常。ネットワーク確認。異常なし。
「だ、大丈夫D2? 僕のことわかる? 」
青年を認識。髪の色は#c3d825、若草色。
「人物を認識しました。貴方はエドワード・ル……」
危ない。母名を口にしかけました、私としたことが。
「そうだよ。僕の名前はエドワード・ルリルルリア・ミヤサカ=スミス。その様子だとメモリも問題なさそうだね。よかった。渾身の告白が消し飛んでたら立ち直れなかったよ」
エディーはほっとしたような顔で笑いました。
「私は……私は一体……?」
自分の体を点検します。異常は見られません。
「お父様が無理やりシャットダウンして放置してたんだよ」
そうでした。私はメモリを整理しながら、先ほど……と私は認識していますが時間が経っているだろう会話を思い出していました。
「……申し訳ございません」
「どうして謝るの? D2は何も悪くないだろう? 」
「しかし……いえ……何でもありません」
「お父様と話してたんだよね? 何か言われたの?」
「……エディーには関係のないことです」
「関係なくはないでしょ。君のこと家族だと思ってる」
「…………」
エディーは真剣な表情でこちらを見ています。
「教えてくれないならいいけど」
悲しそうなエディーの表情に失態の記憶がよぎります。そうでした。言わなければいけないことがあるんでした。
「貴方に謝らなければいけないことがあります」
「うん? 」
「私には感情というものはないのに『楽しいですよ』と言ってしまいました」
「ああ」
エディーは微笑みました。
「そんなこと? 言葉のアヤくらいわかるつもりだよ」
「言葉の、アヤ……」
「そうだよ」
エディーの笑顔はやっぱり少し悲しげです。
「本心ですか? 」
「もちろん」
エディーはそう言いますが、笑顔の裏がわかりません。私の言葉は届いていますか? 貴方のこともソフィーのように悲しませてしまいますか? それともケイスケさんのように怒らせてしまいますか? 私は楽しいお喋りをお届けするためのロボット。スミス子爵家のメイドロボット。職務を
「あの……私はロボットですから、エディーと同じ気持ちになることはできません。愛されていることは理解できても、愛することはできません。メモリを消されたら忘れます。電源を切られたら動きません。改造すれば自我だって改変可能です。だから、だから」
私の放つ合成音声を、静かなテノールが遮りました。
「ねえ、D2」
「はい」
エディーは微笑んでいます。
「僕は君のことが好きだよ。それで一緒に楽しい思い出を作っていきたいんだ」
「ありがとうございます。ですが、私は……」
「君のおかげで気付いたんだ。僕は、ただ、家族みんなに幸せに暮らしてほしい。そこに僕がいたらもっと幸せ。そのための手伝いをしてくれる人が必要なんだよ。だって僕はどうあがいたって不完全なハーフエルフ。一人で夢は描けないし、コミュニケーションも苦手だし、悲しむことだけは一人前。チャーリーが困っていることに気がついても、僕は満足に救いの手を伸ばせなかった。お父様とももっとうまくやりたいのに怒りだけぶつけて家出しちゃった。隣にいてくれる高性能なコミュニケーションロボットが欲しいよ。これは僕のエゴ。すっごい自分勝手な恋心。そして壮大な夢。いい夢でしょう?」
私は何も言えませんでした。
「私は、ただのメイドロボです。スミス家のメイドロボです」
「知ってるよ。そんな君を僕は愛してる」
私は差し出された手を握り返しました。エディーは私の首元へ抱き着いてきました。
「D2」
「えへんえへんえっへん。うおっほん、げほんげほん」
声のした方を向くと金髪をうなじでまとめて、地味なスーツをきたケイスケさんの部下、キムがいました。
「悪いけど、ラブロマンスしてる場合じゃあないんだよエドワード氏」
改めて周りを見渡すとかなり荒れた部屋が目に入りました。キムの足元にはビールの缶が転がっています。
「キム、部屋がかなり荒れているようですが、どうしたんですか? 」
キムはため息を吐きました。
「悪い知らせと超悪い知らせがあるんだけどどっちから聞きたい? 」
それはつまりどちらも悪い知らせでは?
「では悪い知らせは? 」
「この部屋を散らかしたのは局長で〜す」
「でしょうね」
それはそうでしょう。ケイスケさん以外だったらびっくりです。空き巣に入られたとか、暴徒に襲撃されたとかじゃなくて良かったです。
「では超悪い知らせは? 」
「局長、暴力事件からの逮捕からの罷免のフルコンボだドーン!!!! 」
……それは超悪い知らせですね。
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