第40話 ロボットと喧嘩 急

「……なんでそんなこと言うんですか? 今更」


エディーはあくまで冷静でした。ケイスケさんは鼻で笑いながら答えました。


「そりゃあ、これでも心配してたからな」


「心配? まともなこと言いますね、放置してたくせに」


辛辣ですね。対話がないのはお互い様では。


「あとD2のことまだ話してませんよね、僕」


「なんとなくわかるだろ」


「そうですか」


沈黙。


「アルバイト代が貯まったら調理師免許とろうと思います。キンジョーさんがすすめてくださったので」


「そうか」


「まだご心配をおかけしますが自立の道は探っているので」


「できもしないこと言わない方がいいぞ。君はそもそも人と関わるのダメなんだろ」


ケイスケさんとしては『心配』の気持ちを伝えようとしたのでしょうが、言葉選びが下手すぎました。正論かもしれませんが、正しいからといって投げつけていい言葉ではありません。


「……俺がお前の年齢の時は子ども抱えて苦労してたから、とかそういうことですか。俺はできたことお前はできないって言いたいんですか」


「ん? ああ、まあ、そうだな。君は夜泣きが酷くてまあ育てるのに苦労を」


「あやしてくれたの貴方じゃないですけどね。母さんから聞いてますよ。貴方は口だけだすのに手は動かさないから、エドワードお祖父様がよくあやしてくれてたって」


ガコン、と音がして、箱ティッシュがフロントガラスに激突しました。以前は椅子を浮かしていたエディーの念動力です。感情の制御が効かなくなっているようです。


「エディー、運転は私が」


路肩に車を寄せさせて、運転を交代しました。そのうちにエディーは少し落ち着きを取り戻したようです。


「……少しの間、家を出ます」


「出てどこに行くんだ」


「数少ない交友関係の中から泊めてくれる友人を探します」


「そうか」


事態が思わぬ方向に転がってしまいました。


 家に着くなり、エディーは自室で荷物をまとめています。


「何も出て行くことないんじゃないですか? 」


私が声をかけても、手は止めません。


「子どもっぽい逆ギレしてるのはわかってるよ。でもどうせ家にいても自立しないダメ息子扱いされてるんなら、他所で頑張った方が良くない? 」


「言葉のアヤですよ」


「顔突き合わせてもこっちがイライラするだけでいいことないから。せいぜいこっちの世界に適合するために一生懸命になったらいいんじゃない? 酷いこと言ってるのはわかってるけど、お父様だって酷いこと言ったじゃないか。僕が出てこうが何しようが、あの人にとっては蚊に刺されるより大したことないだろ」


「そんなことは……」


ない、と言えるほど私はケイスケさんのことを知りません。エディーはため息を吐きました。


「君と離れるのは寂しいよダーリン。でも僕は変わらなくちゃ」


エディーは片手を上げて、手持ち無沙汰にしています。その手をとって、私の頭にのせました。


「D2……」


「間違えました? 」


「ううん」


ぽんぽん、と軽く私の頭を撫でて、エディーは家を出て行ってしまいました。

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