第38話 ロボットと喧嘩 序
家族ぐるみでケンやテッドとキャンプをしよう、というエディーの提案は、チャーリーが学生とは思えないほど多忙であったため夏休み期間は実現せず、秋になってしまいました。しかしエディーは諦めたわけではなかったようです。ついに、キャンプではなくピクニックですが、三家族合同で遊びに行くことになりました。
「バカ兄貴の運転なんて乗りたくねーよ」
と最初は嫌そうな顔をしていたチャーリーですが、本心では楽しみにしていたようです。一週間も前から浮かれていて、珍しく朝食のタイミングが重なったケイスケさんに話しかけていました。
「ねえ今度のピクニック、日曜だし日帰りだし、お父様もこない? 」
「こらチャーリー、お父様はお仕事で疲れてるんだから、休日に予定入れたら可哀想だよ」
「ちぇー」
このまま会話が終わるものと推測していたのですが、ケイスケさんは手帳を取り出しました。
「……今度の日曜なら空いてるよ」
「ほんと! やった! 」
「いいんですか? 」
「いいよ、たまには」
こうしてピクニックにはケイスケさんも参加することが決まりました。
「じゃあ運転も安心だな! 」
「おいチャーリー、お父様を運転手扱いするなよ」
「だってバカ兄貴の運転なんて絶対やばいもんね、D2? 」
「まあケイスケさんの運転の方が安心ですわね」
「D2まで! 」
エディーは膨れっ面ですが、チャーリーは嬉しそうです。
そんなこんなで日曜日になりました。集まったのはケンとその母親、ノリコ・ササヤマ様。テッドとその両親、オリヴァー・スミス男爵とエリザベス夫人です。運動会に来ていなかったのでテッドの家はこういう集まりには消極的なのかと思っていましたが、そうでもなかったようです。
「はじめまして! チャーリーの親父、ケイスケ・ミヤサカ=スミスです! 」
……誰なのでしょうこの人は。愛想が良くてニコニコ笑顔、背筋はシャンとして身振り手振りと声が大きく、猫背でボソボソ声の普段のケイスケさんとはまるで別人です。営業スマイルというやつでしょうか。ケイスケさんは営業職ではありませんが。
「ほら、やっぱり……」
エディーが呟いています。
「何がやっぱりなんですか? 」
「お父様は貴族とか、いいとこの人とか、そういう人の前だとお仕事モードになっちゃうんだよ。詳しくは知らないけど、異世界人材管理局ってそういうお偉いさんと異世界人を繋ぐ仕事でしょ? だからなんだと思うんだけど、お仕事モードは疲れるみたいで、帰りは不機嫌になるから嫌なんだよ。帰りは僕とD2で運転しようね」
「私が運転しますよ」
「いやいつまでも運転しないとうまくならないからさ、D2さえよかったら助手席にいて欲しいんだけど、ダメ? 」
「わかりました」
たまに思うのですが、エディーって知ってか知らずか甘え上手なところがありますよね。メアリーの教育でしょうか。天然なら天然でいいのですが。
「なーんか、デレデレした空気を感じるな〜」
いつの間にかチャーリーが後ろに立っていました。
「してません」
「してないぞ」
「ほんと〜? まあいいけどさ。D2はともかくバカ兄貴のニヤケ面とかみたくないしほどほどにしてよ。キッツイから」
「なんだと〜」
エディーがヘッドロックをかけています。軽くですが。武術を習っているチャーリーによくやりますね、と思いましたが、そういえばエディーも昔はシンガンドーの道場に出入りしてたんでしたっけ。ヘッドロックは武術というよりも喧嘩殺法みたいなものですけれど。
「ギブギブ! 」
チャーリー楽しそうですわね。エディーが頑張って企画した甲斐がありました。
「エディーさんお久しぶりで〜す! 」
「あ、どうも、今日はお世話になります」
ケンとテッドも元気そうです。紺色のパーカーを着たケンは相変わらずチャーリーと同い年とは思えないほど身長が高いのですが、テッドもかなり身長が伸びていました。運動会で会った時はチャーリーより背が低かったのに、今ではケンに迫る身長です。
「テッド、身長伸びましたね」
「あ、はい。道場行くようになってから筋肉もついたんですよ! 」
そう言って眼鏡の奥の青い瞳を輝かせるテッドは、確実に成長していました。声も少し低くなったような。子どもの成長って本当に早いですね。メアリーが日記に書いていたことを思い出しました。
「おーいみんな、車乗ってくれ! 」
ケイスケさんが呼びかけると、みんなゾロゾロと移動を始めました。
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