第36話 ロボットとハーフエルフ会議 破
赤、黄色、紫、青……地毛の色は何色だかさっぱりわかりません。一房ごとに違う色に染めているのではないでしょうか。どうやったのかわかりませんが耳も短いです。登場の仕方が違ったら、ハーフエルフとは気づかずに前衛的なファッションの少年だと思ったでしょう。色とりどりの髪にダボダボのシャツ、同じようなダボダボのオーバーオール。スケートボードで、やってきました。ジェイほどではありませんが、やっぱりエディーより幼く見えます。十代後半ぐらいにしか見えません。ジェイを見て大喜びしています。
「ジェイ! 元気か! 相変わらずボロボロだなあ、お前」
「おぬしも相変わらずじゃのう。けったいな格好でうるさくて業の極みじゃ」
「えへへぇ、褒められちゃった。あれ、その子たちは? 」
「ロボットとエドワードどのの弟君じゃ」
まじまじと見つめられたのが珍しかったからか
「は、初めまして。おれはバカあ、えーと、エドワードの弟のチャールズです。チャーリーでいいです」
とチャーリーが口籠っています。
「私はライト研究所製人型コミュニケーションロボットD2と申します」
「ヨロピク〜。なか入らせてもらうよん」
「名を名乗るのじゃ馬鹿者」
「ビリーだよん」
二人のお客様は応接間へと入って行きました。その後をついて行く私にチャーリーが小声で話しかけてきます。
「なんか変な人たちっぽいね」
「聞こえますよ」
「いやあ。うちの兄貴ってまだ浮世離れしてない方だったんだなって、ああいうの見ると実感するよね」
失礼な言い草ですがそれは否めませんね。
「そうですね」
「あのさ、兄貴のことよろしく頼むよ」
「はい? 」
「いや、だって、ほら、あの人達はちょっとアレだし」
「そうですね」
「……まあいいや。あとで話そう」
「はい」
変なチャーリー。チャーリーは宿題を片付けに自分の部屋に行ってしまいました。
応接間では三人が何事か話している……というかビリーがエディーとジェイに一方的に絡んでいました。二人は嫌そうな顔をしていますがビリーは気にせず話し続けてます。
「それでベイビーは今でもジェイの勧誘を受けてるわけ? 」
「もうその呼び方やめてくれません? 受けてますけど修行僧になる気はないので」
「なぜじゃ! 」
「宗教に興味がないからです」
「嘘つけ、ジェイみたいになるのが嫌なんだろ。片目、片肺、片腎臓、生殖器にいたっては丸ごとないもんな」
「D2がいるのに不穏な言葉ださないでください」
私よりチャーリーを気にするべきでは? まあこの場にいないのでいいですが。
「わしらの場合、機能は変わらんぞ」
「そういう問題じゃないでしょ! 肉体改造に興味がないのもそうですけど、宗教学に興味がないんですよ本当に」
「これだから魔王との戦いを知らない世代は……。暗黒の中の光、それが信仰じゃぞ? 」
「まあ禁欲は嫌だよな! オレ様もわかるぜ! 」
「ビリーと一緒にされたくないですけどね」
なんだかんだ仲が良いのでしょうか?
「あの、皆様は長いお付き合いなのでしょうか? 」
私が口を挟むとジェイとビリーは顔を見合わせました。
「そうじゃな。それこそエドワードどのが生まれる前から知っておるよ。転移者とエルフの間に子どもができたと聞いた時はにわかには信じれなんだがの」
「ジェイは生ませること自体を阻止しようとしてたもんな」
「え! 」
エディーの反応をうかがいましたが特にショックな様子はなく、むしろ聞き飽きた、という様子です。
「無論じゃ。スミス子爵はまだ先代が妙に気に入っている小汚い転移者にすぎず、たかが塹壕掘りが運よく貴族を助けただけじゃった。エルフ女の方も典型的なその日暮らしの考えなしで、親の役目など果たせそうになかった。ロボットとやら。わしは何歳に見える? 」
「十歳かそこらに見えます」
「ビリーは? 」
「せいぜい十代後半ぐらいです」
「そのぐらいが妥当じゃろうな。わしらハーフエルフは成長期の栄養状態によってどこまで成熟できるかが決まる。エドワードどののように大人に見えるハーフエルフは、なかなかいない。ちなみにわしは百九十九歳、ビリーは二百四十五歳じゃ。たかが二十年ほど前じゃが、今よりずっとハーフエルフは厳しい状況にあった。そこに転移者の血が混じっているなどとんでもない。わしはそう思ったのよ。わしは異世界人について無知じゃった。あのモリーと同郷ということしか知識がなかった。今は過ちを認めておる」
少ししんみりした空気になりかかりましたが、ビリーがすぐに別の話題を振りました。
「てかさー。ベイビーは前までジェイに押し切られそうな勢いだったじゃん。どういう心境の変化? オレ様そこ詳しく知りたい」
「エディーは修行僧になりたかったんですか? 」
「ち、違うよ! 」
急にエディーの耳が赤くなりました。耳が長いので目立ちますね。
「もともと興味なかったけど、俗世に未練が強くなっただけっていうか、なんというか、その」
「ほう。ダーリンか」
「……ダーリンです」
ビリーがちょっと見ないレベルのニヤケ面を晒しています。右に左に揺れながら、エディーに質問をします。
「女か? 男か? 胸と尻とその他とどれがイイんだ? して首尾は? オレ様たちはそういうのなかなかできないからな、薬に頼るのも手だぞ。オニイサンに話してみな? 」
「オニイサンって……年齢的にはおじいさんだし、見た目は年下だし、僕は怪しい薬に頼ってまでそういうことしたくないですよ」
「純粋に恋がしたい! とか思ってるのじゃろう? 若いなエドワードどの」
「貴方たちよりずっと若いですよ」
「人間の欲望を甘く見てはいけないぞ。同じ分の欲望がなければ釣り合わぬ。悪いことは言わん。やめておくことじゃ。してどんなやつじゃ? 」
エディーはかわるがわる質問責めにあっていました。……私はどうすればいいのでしょう。そろそろおやつの時間ですが。
「だーっ、もうしつこい! 」
エディーがこちらに歩いてきます。
「返事は! もらってないけど! 僕の! ダーリンは! この人だから! 」
バン! と音がしたので振り返ると、チャーリーが扉のところで立っていました。おやつを持ってきてくれたようです。
「あ、帰るわ。ごめん。身内の恋愛ネタきっつ」
「帰んないで! 」
エディーが取り乱しているなか、ビリーがぼそっと
「人じゃなくない? 」
と言っていたのを、私は聞き逃しませんでした。そうですね。
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