第33話 ロボットと転生者 破

「あらためまして、ぼくの名前はキンバリー・テイラー。前世の名前はキムラヒロタカ。あ、キムラが名字でヒロタカが名前ね。キムって呼んで」


「では改めまして、キム。私はライト研究所製人型コミュニケーションロボットD2と申します」


「よろ〜」


 掃除と洗濯がひと段落すみ、キムはソファーに、私はキッチンにいます。


「そういや局長、ロボット雇ったんだもんな〜。ずいぶん人間っぽいけど」


「どんなロボットを想像してたんですか? 」


「なんか、こう、円盤状のやつとか」


「はあ」


 円盤状……? お掃除ロボットでしょうか? 確かにそういう形のものもありますが……。


「あのさ〜、局長にはぼくの部屋のこと黙っといてくれるかな〜?」


「ロボットはプライバシーを守ります」


「プライバシーか〜。いや〜、それもそうだけど、それを抜きにしても局長には話せないよ〜」


 ケイスケさんはキムを高く評価しているようですが、キムはケイスケさんが苦手なのでしょうか?


「キムとケイスケさんは長い付き合いだそうですが、それはどういう意味ですか?」


「うーん、まあなんというか、いや、これ言うべきことなのかな~。でも言わないわけにもいかないしな~。うん、よし! 」


そう言ってキムは立ち上がりました。


「局長、鬼上司なんだ!」


「なるほど」


 キムは再びソファーに腰掛けます。


「鬼上司ったって色々いるけど、局長はゴリゴリの体育会系かつ完全トップダウン型の組織づくりでさ、転特受けたてド新人のぼくを大抜擢しちゃうくらいにはワンマンなのよ。そのせいでただでさえ多い敵に常に足元狙われてるっていうか……余計な心配かけるからプライベートなことは一切話せないな~」


 転特とは転移者・転生者特別試験の略です。転移者・転生者特別試験とは、異世界において取得した知識をこちらの基準でテストし、一定の知識量を認められると高等学校および大学を受験するのに必要な学位や、未成年の転生者の場合は成人として就労する資格を得ることができます。


 公務員になるには十八歳以上かつ魔法学校のような十歳から十八歳まで通う高等学校の学位が必要ですが、転特で優秀な成績を修めればすぐに成人として勤務することが可能です。つまりキムは優秀な成績だったということになりますね。


「ぼくは局長のこと尊敬してるけどね」


「それは良かったです」


「ぼくが転生者なのみんな知ってるから、職場でも居心地がヤバいくらい悪かった時期があってね。その時に色々気配りしてくれたんだ。ものすごい量の仕事ふってくる時だけはぶっ殺したいけど、部下を働かせる分自分もヤバい仕事量こなすしね。惚れるわ~」


 惚れる……今のケイスケさんにパートナーはいませんから問題はないのですが。


「キムは男性が好きなんですか?」


「へ!?  あ、いやさっきのは言葉のアヤというか、惚れるぐらいイイ男だな~って意味で本当に恋愛対象としてみてるわけじゃないよ。タッパあってイケメンなの羨ましいな~って。ぼくは前世では女の人が好きだったし、どちらかと言われれば女の人と付き合いたいよ。覚醒するまではいわゆる白馬の王子様への憧れもあったけどね。今はおっぱいが大きくてカッコ良くておっぱいが大きい王子様みたいな女の人にドロドロに甘やかされた~い」


 キムのいう覚醒とは、前世の記憶を思い出すことでしょう。王子様への憧れがあったということは、少なくとも物心つくまでは転生者の自覚がなかったということです。アイデンティティの揺らぎはなかったのでしょうか。


「転生者として覚醒して、戸惑いはなかったんですか?」


「う~ん。うち貧乏男爵で、覚醒するまで人生詰んでたからそこまで戸惑わなかったな~。ここから脱出する手段を見つけたぞって感じで、むしろ喜んでた。前世で女の子になっちゃう漫画を読み漁ってた甲斐があったぜ~」


 よくわかりませんが、あまり戸惑わなかったようですね。


「でも恋愛関係を築くのは苦労しませんか?」


「やけにきくね。さては何かお悩みだな?」


「え、そういうわけでもないですけど……」


 チラッとエディーの顔を思い出しました。


「ほ~ん。まあいいよ。話してあげよう、ぼくの恋バナを!」


 キムはソファーに座り直しました。

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