第29話 ロボットとドライブデート 序
夏真っ盛りです。
夏休みに入ったチャーリーは家にいる……かと思いきや、部活に道場にと忙しく過ごしています。チャーリーとケンが通っている、かつてメアリーが師範を務めていた道場に、テッドも通い出したそうです。
そして大きな変化がありました。エディーがアルバイトを始めたのです。
「家事はD2が頑張ってくれてるし、少し自由になるお金を増やしたくてさ」
とエディーは言っていました。アルバイト先はケイスケさんの古い友人のキンジョーさんの料理店です。
「飲食店なら帽子を被ったままとはいかないでしょう、どうしているんです? 」
と尋ねたら
「カツラを買ったんだ」
と新たな変装姿を見せてくれました。
黒髪のカツラを被るとかなり印象が変わります。なんというかケイスケさんに似ていることがよくわかりますし、チャーリーとの血の繋がりも改めて感じます。美形はなんでも似合いますね。非人間的な要素が削られる分、こちらの姿の方がキャーキャーと騒がれそうな気がします。
「耳はどうしているんです? 」
と尋ねると、エディーは太めのヘアバンドをつけました。カツラの長い前髪を上げて清潔感を保ち、ついでに耳も隠してしまうお手軽アイテムです。
「なるほど。似合ってますよ」
「ありがとう。まあ厨房を手伝っているから、あまりお客さんとは会わないんだけどね」
エディーは朝早くから夕方まで週三日、出かけるようになりました。
そして季節を問わずケイスケさんは忙しそうです。少し夏バテ気味でしたので、久しぶりのお休みの日に流しそうめんを用意してみました。成長期のチャーリーがかっさらってしまっていたので、そうめんを流すという趣向を楽しんでいただけたかは不明ですが、そうめん自体は
「美味しいね」
とおっしゃっていました。ちなみにチャーリーには別に冷やしゃぶを食べさせておきました。成長期の胃袋は底なしで、どこか胃腸がおかしいんじゃないかと思うほどよく食べます。エディーが持って帰ってくる
そんなある日、アルバイトから帰宅したエディーにお誘いを受けました。
「D2今度の火曜日、僕とドライブに付き合ってくれない? 」
火曜日はエディーがシフトに入っていない日です。
「かまいませんが、チャーリーやケイスケさんは誘わなくて良いのですか? 」
「……実はチャーリーぐらいの年頃の子どもは、父兄が車を出してキャンプに行って遊んだり、友達と家族ぐるみの付き合いをしたりするらしいんだけど、今までそういうのできなかったからさ。機会を作ってあげたいんだけど、予行練習しておこうと思って」
「まあ。それはいい考えですわ」
と言ったのですが。
「エディー、本当に免許持っているんですよね」
「持ってるよ。さっき免許証見せたでしょ」
当日、ハンドルにかじりつくような姿勢でエディーが言いました。
「はい。ですがエディー、その運転姿勢はダメです。背もたれに背中をつけてください」
「わ、わかった」
エディーに予行練習をする頭があってよかったです。そうでなかったら、大変な事になるところでした。
ちなみに私たち人型ロボットは、定期的に機能点検を受け、アプリをダウンロードすれば車を運転することができます。私はこんなこともあろうかと、アプリをダウンロード済みです。超高性能ロボットですから。帰りは私が運転しましょうかね……。
「エディー、そろそろウィンカーつけてください。次左折です」
「は、はい」
危なっかしいですがなんとか曲がります。その前の交差点では、危うく道のど真ん中で渡れなくなるところでしたが。
「エディー、免許取得したの何歳ですか? 」
「十八歳」
王国で免許がとれる最低年齢です。とりあえず取得したのでしょうか?
「最後に運転したのいつですか? 」
「十八歳……デス」
「今まで運転していた様子はありませんでしたが、なぜ免許を取得したんです? 」
「それは……メアリーさんの送迎で使うかと思って。ほら、最後は病院と家を行ったり来たりしてたからさ。結局使わなかったけど」
「すみません」
「謝んないでよ」
私たちは王都外周を走る高速道路に乗って、海の見える展望台を目指しました。
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