第28話 ロボットと家族の誇り 急
「差し出がましいようですが、一度検査はした方がいいかと。かなり砂を飲んでいたので、無理に吐かせましたし」
「そうね。やっぱり先生と病院に行きましょう。回復魔法って便利だけど、要は自然治癒力を高めているだけですからね」
そうそう。回復魔法はエルフの自然治癒力が異様に高いのと同じで、自然に治るものを短い時間で治しているにすぎません。脊椎が損傷したり、眼球が取れたり、自然に治らないものは治りません。内臓にダメージがあった場合は病院に行った方が良いのです。
その時、養護教諭がまとめておいてくれたエヴィルスレイヤー少年の荷物から、電子音が鳴りました。
「あら通話よ」
うっかり校医がとってしまいました。彼女としては鎖骨を折られたエヴィルスレイヤー少年への気遣いだったのでしょうが、裏目にでました。
「アル、お前ばち当たったな」
エヴィルスレイヤー少年そっくりの声で、映画の悪役みたいな高笑いが医務室に響き渡りました。おそらく弟でしょう。うっかり校医がスピーカーモードにしてしまったようです。うっかりさんにもほどがあります。
医務室は水を打ったように静かになってしまいました。当たり前ですが。
「何、黙っちゃうわけ? 魔法学校入れたからって威張り散らしてた罰だよ。父上に気に入られてるからって、辺境伯家つげると思ってた?ヘマこいたな、全部ぱあだよ。ざまあ見ろ」
「……ギルバート様」
それまで板状になって黙っていたスパイダーがクモ型になって口を挟みました。
「あれスパイダー? なんで聞いてるんだ?」
「コノ音声ハスピーカーモードニナッテイル」
「え……」
ギルバート様とやらは流石に公衆の面前では先程の暴言を吐けないようです。アルバート・エヴィルスレイヤー少年とは対照的ですね。
「アルバート様ハギルバート様ト同ジクライ性格ガ悪イガ」
「おい」
「性格ノ悪サガ少シ異ナル。アルバート様ハ良クモ悪クモ正直ダ。本音ガ隠セナイ。良ク思ワレヨウト取リ
「……本人そこにいるんだよな?」
あまりにも歯に衣着せない性格批評に、ギルバート様の方が引いています。
「ダカラ貴族院議員タル、エヴィルスレイヤー家当主ニハ向カナイ。腕力デネジ伏セルコトモデキナイナラ嫡男ノ地位は降リルベキ。指輪ハギルバート様ノ元ニ。ダガ嫡男デナクトモ、ドンナ性格ダロウト、アルバート様ハ優秀ナ魔法使イデ守ルベキボッチャマ。ソレハ
「……」
「アルバート様ヲ
「うざ」
ギルバート様は通話を切ってしまいました。
「……なんだよスパイダー。同情か? 惨めだからって」
アルバートの方のエヴィルスレイヤー少年がボソリと言いました。あれを同情ととるのですか……。人間って難しい。
「違ウ。ボッチャマヲ見守ルノガ今ノ仕事ダカラ。ソレガスパイダーガスパイダータル所以ダカラ。ソレダケ。ロボットハ性格ヤ地位ニヨッテ人間ヲ区別シナイ。人間ハ人間。ボッチャマハボッチャマダ。多数ノ人間ニ嫌ワレヨウト、スパイダーハ、エヴィルスレイヤー家ノロボットダ」
エヴィルスレイヤー少年は黙ってしまいましたが、私は感銘を受けていました。
プログラムの違いなのか、私とスパイダーは主人に対するスタンスが異なります。私は主人、というか家族には社会の中で幸福度の高い生活を送って欲しいので、行動に口出ししますし、痛い目に遭っていたら助けます。小さな希望でも叶えたいと思って行動します。
スパイダーは主家を仕事先として捉えているのでしょう。嫌われるような言動にも口出しはしませんし、痛い目に遭っていてもそれが主人の行動の結果なら助けません。徹底して職務外の行動はせず、主家の最善のために尽くします。
スタンスは違えど、そこには無駄を省きながらも最善を尽くすプロフェッショナルの姿がありました。ロボットは性格や地位によって人間を区別しない。その通りです。
「スパイダー、師匠と呼んでもいいですか?」
「イヤダ」
「えー。けちんぼ」
スパイダーは私の発言を華麗に無視すると、再びエヴィルスレイヤー少年に語りかけました。
「ボッチャマ、コノヒトガタノ主人タチニ、何カ言ウコトハ?」
「……お前ら、どうせさっきのやり取り聞いてざまあ見ろとか思ったろ」
「うん! ざまあ!」
きっぱり言い切ったのはチャーリーです。それはそうかもしれませんが、言い方ってものがあるでしょう。
「いやボクは君の家族に興味ないからどうでも……」
それはそれでどうなんですか、テッド。ケンとエディーは黙っています。
「……ごめんなさい」
医務室に再び沈黙が訪れました。沈黙を破ったのはエディーです。
「許す許さないは、チャーリーやテッドが決めることだけど、とりあえず謝罪をした勇気を僕は認めるよ。スパイダーを大切にね。君がチャーリーにしたことは過ちだし、差別的な君の思想は嫌いだけど、君はやり直せるよ、必ず。地割れを起こせるほど優秀な魔法の使い手だ。その能力を、二度と人を傷つける方向に使わないでね。誓える?」
「……アルバート・ローレンス・エヴィルスレイヤーの名にかけて」
チャーリーとテッドは顔を見合わせていましたが、やがてチャーリーが頭をかいて話しはじめました。
「まあ、なんだ。文句や好き嫌いがあるのは人間だからしょうがないよ。そういう時は一対一で殴り合おうぜ、さっきみたいに」
「ボクは殴り合いは嫌だけど、集団で何か言われないなら別に」
ケンがポンと手を叩きました。
「正直、差別意識はエヴィルスレイヤーくんのオリジナルじゃないし、俺ら子どもは親の背中を見るものだし、これから言動を改めてくれればいいってことで。解散、解散! 早く病院なり家なり行こうぜ」
とりあえずは一件落着なのでした。
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