第26話 ロボットと家族の誇り 序

『炎よ波となりて焼き尽くせ。ガンマ教典第二句十二番』


エビ天が炎を放ちました。チャーリーは再び飛行魔法を使い、炎の波の上を飛んで間合いを詰めようとします。


『風よ障りを飛ばせ。イプシロン教典第一句七番』


エビ天が追撃を加えました。風に煽られて火が大きくなります。


「あっぶね」


チャーリーは空中で体勢を変えましたが服が燃えかけました。また風に阻まれ間合いが詰められません。魔法だけならばエビ天が有利です。


『炎よ矢となりて射止めよ。ガンマ教典第一句十番』


風が止んだ瞬間、炎の矢がチャーリーを襲います。


「うわっ」


チャーリーは飛行魔法で回避を続けますが、これではいつか矢が当たり燃やされてしまいます。


「もう降参したらどうだ? お前は魔法使いとして強くない」


その言葉に、チャーリーの顔に笑みが広がりました。次の瞬間チャーリーの姿が消えました。そしてエビ天の真横に現れます。


「その通りだ」


いつの間にか脱いでいた運動着の上着でエビ天の頭を覆います。


 チャーリーは手刀でエビ天の杖を叩き落とし、そのまま手首を掴んで投げ飛ばします。エビ天は地面に押さえつけられました。


「……十カウントで一本だ」


審判がカウントを始めます。エビ天は念動力で杖を呼び寄せようとしますがチャーリーが足で踏んづけているので動きません。チャーリー自身の杖はというと離れたところで地面に突き刺さっています。念動力による呼び寄せは視界に頼るところが大きいので、視界が奪われているエビ天は上手くいかないようです。


「三、二、一」


その間にもカウントは進みます。チャーリーの勝利は確実かと思われました。が、もがくうちにエビ天の身体の一部が杖に触れたようです。


 バキバキと音がして地面が割れていきます。


「この馬鹿! 」


審判が叫び何やら魔法を発動しているようです。しかし、時すでに遅し。チャーリーを道連れにしてエビ天ことエヴィルスレイヤーの身体が沈んでいきます。


「チャーリー! 」


エディーがフェンスを飛び超えて助けに入ります。跳躍に飛行魔法で補助を加えたようです。私も続きましょう。


「D2はそこで待機! 」


振り向きもせずエディーが叫びます。ロボットは命令には従わざるをえません。地面にぱっくりと空いた裂け目めがけてエディーが飛び込みます。


「くそったれ」


ケンがフェンスを飛び越えようとしていたので止めました。二次災害になっては大変です。


「離せっ」


「危険ですから」


「ボクらが行っても足手まといだよ」


テッドと二人で何とか羽交い締めにしました。


 教師が複数人で反対魔法を唱えていますが、裂け目は塞がりつつあります。エディー、チャーリー、どうか無事で。


 すぐに投げ出されるようにしてチャーリーが出てきました。


「スミス大丈夫か⁈ 」


「せ、先生、お兄ちゃんが、お兄ちゃんが」


チャーリーは動転しているようです。教師が手を引いて手当てを受けさせようとしますが、その場でしゃがみ込んでしまって動きません。地面にのまれかけたこともそうですが、あれだけ攻撃をくらって怪我をしてないかも心配です。私はその場で待機と言われていますが……。


「ケン、テッド、頼みがあります。すぐにチャーリーを連れて医務室に行ってください。エディーなら大丈夫です。早く! 」


「わかった! 」


「わ、わかりました」


ケンとテッドが駆け寄って、チャーリーに話しかけています。チャーリーと目があったので、一回だけ頷きました。チャーリーはケンの肩につかまって、しぶしぶ医務室へと歩いて行きました。


「スパイダー、貴方はここにいていいんですか? 」


スパイダーは黙ったままです。


「坊ちゃまが危険ですよ」


「生体反応ガアル」


「…………」


ロボット憲章に照らし合わせれば、スパイダーのように、特定の人間に肩入れせず黙々と仕事をこなした方が、ロボットらしいのかもしれません。ロボットはいわゆる『ご主人様』にではなく、人類の幸福に仕えるものです。


 教員の魔法が効きはじめたようで、裂け目になっていた場所がうねのように盛り上がり、二つの人影が出てきました。


「D2、この子の砂吐かせられる?背中叩いても吐かないんだ」


自分についた砂も払わずにエディーが叫んでいます。少し言葉がおかしいですが、言いたいことはわかります。


「すぐ行きます! 」


エディーからエヴィルスレイヤー少年を受け取り、腹部を突き上げて砂を吐かせます。意識はありますがかなりダメージを受けている様子です。


「先生、エヴィルスレイヤーくんを医務室へ」


手近なところにいた教員に声をかけます。


「あ、は、はい」


若い教員にエヴィルスレイヤー少年を託します。


「エディー貴方は大丈夫ですか?歩けますか? 」


「大丈夫! 」


勢いよく振り上げようとした腕がだらりと垂れます。


「ちょっとかしてください」


やはり肩が外れています。


「舌噛まないようにしてくださいね」


「う、うん」


一声かけて肩をはめます。


「他は? 」


「特にないよ」


興奮状態にあると痛みを感じませんから、安静にした方がいいですわね。


「私たちも医務室に行きましょう。チャーリーが待ってます」

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