第25話 ロボットと決闘騒ぎ 急

「始め」


 チャーリーが走って間合いを詰め、エヴィルスレイヤーめがけて杖を振り下ろしました。杖は決闘用に調整されたもので、これを握った状態でしか魔法が使えません。チャーリーは単純に棒として使おうとしていましたが。


 エヴィルスレイヤーは後退してかわします。運動靴が砂埃をあげました。


『砂塵よ人形となりて敵を討て。アルファ教典第五句三番』


 魔法を発動する際に正式な詠唱を行うことはほぼないので、勉強になりますね。教典うんぬんはその魔法が収録されている教典とその番号を指します。エヴィルスレイヤーの使った魔法は一時的な魔法人形、ゴーレムを作る魔法です。エヴィルスレイヤーとチャーリーの間に砂の巨人が立ちはだかりました。


「このっ」


 チャーリーは後退しようとしましたが、一歩遅く杖を掴まれてしまいました。


『風よさわりを飛ばせ。イプシロン教典第』


 チャーリーが魔法を使おうとします。


『炎よ矢となりて射止めよ。ガンマ教典第一句十番』


 ゴーレムを吹き飛ばそうとしたチャーリーですが、逆にゴーレムごと燃やされそうになりました。


「あっつ! 」


 燃え盛り崩れ落ちるゴーレム。すんでのところで杖を離し、事なきを得たチャーリーですが念動力で杖を奪われかけます。ちなみに念動力と飛行魔法は詠唱がありません。杖もちょっとやそっとの炎では燃えません。


 杖はチャーリーとエヴィルスレイヤーの間で宙ぶらりんになりました。お互いの念動力で引っ張りっこの状態になってしまったのです。


「そういえばさあ」


 杖から目を離さずチャーリーが話し出しました。


「ミスター、君の名前なんだったっけ?エビ天フライヤー? 」


「エヴィルスレイヤーだ! 」


 注意がそれたことでエビ天の念動力が弱まります。杖は均衡を失い、チャーリーの手に収まりました。


『炎よ蛇がうがごとく焼き払え。ガンマ教典第二句十三番!』


 チャーリーの放った炎を避けながら、エビ天が杖を振り上げます。


砂塵さじんつぶてとなりて吹き荒れよ。アルファ教典第二句一番』


「痛っ」


 チャーリーが放った炎の上を飛んだ礫は、正確に額にぶち当たり、注意が逸れたことで炎は消えてしまいました。


「一本!」


 エビ天に一本取られてしまいました。チャーリーは額から出血していましたが、審判の回復魔法で治りました。隣のエディーが卒倒しそうな顔してますが大丈夫でしょうか。ケンとテッドも青白い顔をしています。


「始め」


 さあ二回戦目です。ここで負けると退学になってしまいます。


 先程の反省を活かしてか、チャーリーは合図とともに飛行魔法を使い、エビ天の間合いに入ります。魔法を発動される前に杖を振り下ろしました。


 私にシンガンドーはよくわかりませんが、チャーリーの動きには隙がありません。対してエビ天は武術がそう上手くないようです。まともに杖の攻撃をくらい、鈍い音とともに崩れ落ちました。鎖骨が折れたようです。


「一本!」


 私はスパイダーの反応を確認しました。ご主人が攻撃されているのですから、何か反応してしまうのではないかと考えたのです。スパイダーは不動でした。


「ヒトガタヨ、ナゼソンナ表情ヲシテイル?」


 観察していたことがバレていました。さすが最新モデル。


「ミラーニューロンがプログラムされているので、自然と表情が移るんです」


 ミラーニューロンは人間をはじめ霊長類が持っている脳の働きで、共感を司るとされています。ライト博士の作ったロボットは、近しい人間の表情を無意識的に真似することで、ミラーニューロンを持っているかのような行動ができるのです。ちなみに欠伸も移ります。スパイダーがそんな表情と言ったのは、私が無意識的にエディーの表情を映し取っているからでしょう。


 エディーは顔をしかめていました。相手がエビ天とはいえ、子どもが怪我をしているところは、見ていて気持ちの良いものではありませんからね。


 エビ天は形の良い唇を歪めて、じっと痛みに耐えていました。


「ロボットニ表情ナンテ非効率ダナ」


「人類の仲間としては役立つ能力ですよ」


 エビ天の回復が終わりました。


「始め!」


 次で勝負が決まります。

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