第24話 ロボットと決闘騒ぎ 破

「ねえ、やめようよチャーリー。負けたら退学になっちゃうんだよ。今までも酷いこといっぱい言われたじゃないか。なんで今日だけそんな怒るんだよ」


 決闘は全ての競技が終わってから行うことになりました。エヴィルスレイヤーが去ると、落ち着いている本人の代わりにテッドが慌てていました。


「ねえケンも止めてよ。アイツのせいでチャーリーが退学とかおかしいよ」


「おいおい、なんでチャーリーが負けること前提なんだよ」


「だってアイツんち辺境伯だし、アイツ卑怯だから絶対なんかやるもん!」


 酷い言い草ですが一理あります。


「チャーリー。私はエヴィルスレイヤー氏の実力を知らないのですが、勝率は何割ぐらいですか?」


「うーん。だいたい六割」


「低くくない⁈ 」


 その場の誰もが思っていたであろうことを、テッドが代弁してくれました。


「ねえやめようよチャーリー。バカバカしいよ、アイツに構うなんて」


「まあね」


 チャーリーはポリポリと頭をかきました。


「でも一人に対して色々言ってた時ならいざ知らず、ダチとか家族に暴言吐くのはナシだろ」


「チャーリー……」


 かつてエヴィルスレイヤーに逆らえなかったテッドには、思うところがあるようで、俯いて黙ってしまいました。


「まあ舐められっぱなしは嫌だよな。俺は止めないぜ」


 ケンは軽くチャーリーの肩を叩きました。


「それに学校変わっても俺ら友達だもんな〜」


「いや負ける気はないからな⁉︎ お前、おれが勝ったらアイス奢れよ」


「どさくさに紛れて何頼んでんだよ」


 友達には軽口を叩きながら、チャーリーはチラチラとエディーのことを気にしています。エディーは険しい表情のまま黙っています。しょうがないですね。


「エディーが決闘を認めたのは意外でした」


 私が話しかけると、エディーは少しだけ眉をあげました。


「チャーリーの気持ちはわかるからね。それに本人がそれでいいなら、魔法学校にこだわる必要はないと常々思ってるし」


「……兄貴、勝手なことしてごめん」


「いーよ、別に。お父様には僕から説明するから、存分に暴れておいで。怪我するんじゃないよ」


「怪我はすると思うけど、できるかぎり軽症におさえる」


「よろしい」


 エディーは過保護なんだか放任なんだかわかりませんね。親ではないのだから過保護も放任もないかもしれませんが。




✳︎✳︎✳︎




「逃げずに来たじゃん。褒めてやるよ」


「お前の吠え面を拝みに来たのさ。ふさわしい学校に通わせてやる」


 閉会式の後。教員を立会人として、グラウンドにチャーリーとエヴィルスレイヤーの二人が立っています。グラウンドの周りはフェンスで囲われていて、見物客が入れないようになっています。私たちとスパイダーの他にも野次馬が集まり、普段は使われていないらしい、土のグラウンドには人だかりができていました。


「それでは決闘のルールを説明する。私が止めと言ったらその時有利な方が一本、三本先取だ。習っていない魔法は使わないこと。魔法の効力の判定のため、詠唱の省略は禁止だ。折っていい骨は三本まで。ただし脊椎を故意に折らないこと。殺しは禁止だ。スミスが負けた場合は退学、エヴィルスレイヤーが負けた場合は辺境伯家暫定次期当主の資格が失われる」


 審判は特別クラスの新しい担任です。テッド曰くまともな人だとか。しかしあっさり決闘をさせてくれるあたり、さすがは元魔法戦士養成学校といったところでしょうか。ルールが決まっていることもなかなかですが、ルール自体も物騒です。今更ですがチャーリーは大丈夫でしょうか。


「わかったら血判を。家名と自らの名前にかけて、誓いを立てなさい」


 銀のナイフと紙を差し出されたチャーリーは、親指にナイフを当てて血判を押しました。淡く魔法陣が浮かび上がって消えます。


「誓います。ミヤサカ=スミス子爵家とチャールズ・アイスケ・ミヤサカ=スミスの名にかけて」


「エヴィルスレイヤー辺境伯家とアルバート・ローレンス・エヴィルスレイヤーの名にかけて誓います」


 思わぬところでチャーリーの母名がわかってしまいました。アイスケですか。ケイスケと音が似ていますね。形式的な誓いに、チャーリーは一言足しました。


「君が尻軽女呼ばわりした、異世界武術シンガンドー総本山ヤマモト道場師範代メアリー・シャーロット・ミヤサカ=スミスの次男だ」


 ほえー、総本山師範代。良くわかりませんが強そうですね。しかし親とはいえ勝手に母名をバラしていいのでしょうか?故人はフルネームで語られることも多いのでなんとも言えませんが。


「よろしい。ではお互い背中あわせの地点から三歩進むように」


 審判の声かけでいよいよ決闘が始まりました。

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