第23話 ロボットと決闘騒ぎ 序

 ランチタイムの平穏を破ったのは、やはりというべきか、あのエヴィルスレイヤーでした。


 昼休みがもうすぐ終わるという時、その場にはテッドとチャーリーと私がいました。エディーはジャケットを預けられるロッカーがあると知り、ケンとそちらにいたのです。


「おやスミスじゃないか、そんなところで何してるの? 」


エヴィルスレイヤーがそう言うと、周りがしんとなりました。


「え、えっと、ボクとチャーリーの、ど、どっちに話してるのかな」


エヴィルスレイヤーは明らかにテッドに向かって言っていましたが、せめてもの抵抗か、テッドが質問をしました。


 しかしエヴィルスレイヤーはその質問には答えず、私を見て言いました。


「おいなんだよ、その変なロボット。お前の趣味か?萌え〜的な?キッモ」


「どんな感想を抱こうと勝手ですが、口に出すのは褒められた行為ではありませんね」


「あ、喋れるんだ。賢いじゃん。そんな弱虫のとこで働くのやめてうちこない?うじうじうじうじいじけてるくせに良い子ちゃん面のキモオタのところとかやめてさあ」


テッドは俯いています。おっしゃる通り私は賢いので理解しました。エヴィルスレイヤーはいじめの標的を、チャーリーからテッドにスライドさせたようです。


「D2はうちのロボットだし、たしかにカワイイけど萌え〜用じゃなくてメイドだから。妙な難癖やめてくれる? 」


すっかり無視されていたチャーリーが口を挟みます。あらやだカワイイって。チャーリーったら珍しく素直。


「ああ異世界趣味なのか。なるほどね」


「ちゃんと謝れよ」


「妙なのは事実だろ。優秀なロボットってのはこういうのを言うんだぜ 」


そう言ってエヴィルスレイヤーが懐から取り出したのは一枚の板です。指で突かれるとあっという間に大きくなって、地面に降り立ちました。


 あ、あの方は業界最大手YKカーペンター社の最新型蜘蛛型自律ロボットspider13愛称スパイダーでは!?


 黒光りするあのボディ、自由自在に持ち運ぶことができるとロボットという今までにはない発想、そして高度な知能。魔法で工学的に不可能な大きさの変化を可能にしていることから、まるでゴーレム、と揶揄されたこともありますが、その性能は折り紙つきです。こんなところでお目にかかれるとは……。さすが貴族、エヴィルスレイヤー家の財力は本物ですわね。


「……ボッチャマ、自慢ノ為ニ呼バレルノハ好キデハナイ」


発話機能は私も負けていませんわね。これからは大企業の新製品にも負けない発話機能を誇りにしていきましょう。


「ロボットに馬鹿にされてんじゃん。ザマないな坊っちゃま。そのキンキラの指輪も効いてないみたいだぜ」


エヴィルスレイヤーにはその一言がよほど気に食わなかったようです。


「てめぇ」


と語気を荒くしこちらを睨みます。てめぇとかチャーリーでも言いませんよ。


「外来種とそれに尻尾ふる尻軽女のあいの子が偉そうに。だいたい異世界人なんてただでさえ得体がしれないのに、勝手に住みついて認めろ尊重しろと騒ぎ出す。なぜこの王国に住み着く?いなくなっていただいて結構だよ」


だいぶ話題を逸らしに来ていますわね。意図的なものだとしたら大したものです。それはそれとしてお尻を蹴飛ばしておきましょうかね。


 などと私が考えている間に、素早くチャーリーが立ち上がっています。止めるまもなく手袋をエヴィルスレイヤーの顔面に叩きつけていました。その表情は意外なほど穏やかなまま、完全なる無表情です。青筋立てて怒るか、無視するかの二択だと思っていましたが。


「そこまで言うなら貴族らしく決闘といこうぜミスター。前から君のことはぶん殴ってやりたいと思ってたんだ」


エヴィルスレイヤーの肩越しにチャーリーが見ている方向をたどるとケンが戻っていました。エディーも一緒です。『外来種とのあいの子』はエディーも同じ。ケンだって異世界人の血を引いています。エヴィルスレイヤーの暴言を見逃すわけにはいかなかったのです。


「ふん。決闘なんてここ最近行われてない。だいたい我が家がそんなこと許すわけ……」


「許スソウデス」


スパイダーが言いました。


「ホンケニ確認シタトコロ、決闘ヲ許ス。タダシ退学ダケハヤメロト」


決闘はかなり儀式化されており、命を落とすことを避けるため、負けた方が学生なら退学、社会人なら辞職が通例です。退学、辞職ができない場合はそれと同等の何かをかけます。


「な、父上がそんなすぐに返事ができるとでも? 」


「当主様ハ基本方針以外ヲホンケニ任セテイマス」


話の文脈からしてホンケとはエヴィルスレイヤー家を管理する人工知能のようです、ならば即答も不自然ではありません、人間より処理速度が速いですから。


「スミス子爵家としても決闘を許可します。退学が駄目ならそちらは嫡男の座をかけてはどうかな? 」


にこりともせずにエディーが言います。あの指輪は嫡男の証でしたか。


「え、えるふ……」


エヴィルスレイヤーは少なからず驚いたようです。


「ハーフエルフですよ。チャーリーの異母兄です。以後お見知りおきを。尻軽女はエルフにもいるのでね」


エルフは異世界人と違い、時に信仰の対象にさえなってきました。不思議なことに同じ異なる背景をもつ人類の中でも、エルフは畏れ、異世界人には敵対する人間は多いのです。エルフはそもそもの生物種からして違うので、単純な比較はできませんが。エヴィルスレイヤーは焦りはじめました。


「いや、でも、それこそ当主の許可が……」


「問題アリマセン」


煮え切らないエヴィルスレイヤーにチャーリーが舌打ちしました。


「君は乗るかそるか早く決めろ。怖いのか? 」


「……あとで吠え面かくなよ」


決闘が決まりました。

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