第22話 ロボットとケーキと運動会 急
運動会は魔法学校らしく、魔法を使う競技がおおくありました。
そもそも魔法とは、大気中の魔素を体内の魔力回路で魔力に変換、放出することで起こす奇跡のことです。
私が少しだけ魔法を使えるのは、動力の補助として魔力機関を積んでいるからです。魔力機関は本来、魔素を取り込んで魔力に変換するエネルギーで発電するものです。作った魔力でまた発電します。私がほぼ充電なしで動けるのはそういう理由です。ちょっと余分に魔力を作るとそれを放出して魔法が使えます。
私の魔力機関はあくまで発電用なので、そこまで多くの魔力は持てません。人間の魔力回路も人によって魔力に変換できる量が違い、これは生まれつきです。訓練で魔素を体内に取り込んでから変換、放出するまでの時間を短縮することはできますが、一度に放出できる魔力量には歴然と才能がでるのです。
魔力回路は転移者も持っていますが、転移者だから魔力回路が発達しているということも、その逆もありません。
体内の魔力回路を発達させることで、不老かつほぼ不死の体を手に入れた生物がエルフです。エルフの魔力は強大で自身の細胞にも魔法を行き渡らせています。頭を吹っ飛ばされるなど回復不可能な負傷か、本人に回復する意思がなくなった時しか死亡することはありません。
話が脇道にそれてしまいました。チャーリーの出場した競技の話です。箒で飛ぶ荷物運び競争に出場していました。
メアリーの日記にもあったように、飛行魔法は魔法学校にでも通わない限り習得できません。原理としては単純に魔力を操作して浮き上がるだけで、念動力と大差ないのですが、コントロールに技術が必要で、失敗すると墜落の危険があります。
メアリーを乗せて飛ぶという約束は叶いませんでしたが、チャーリーは立派に飛行魔法を習得していました。
「よっしゃ! 一位だ! 」
チャーリーが飛び上がって喜んでいます。隣のクラスらしきケン少年とハイタッチしています。彼らの周りでは見物客たちが拍手しています。私も手を振ったら、振り返してくれました。
お昼休憩の時間になりました。チャーリーが友達と連れ立ってこちらにきます。
「どーもー!チャーリーの友達やらせてもらってます、ケン・ササヤマでーす。見ての通り二世でーす」
「あの、こ、こんにちは。セオドア・スミスと言います」
黒髪と赤髪。茶色い切れ長の瞳と青くて丸い瞳。ハキハキした大きな声とか細い声。まるで対照的な二人のお友達はペコリと頭を下げました。二世というのは異世界からの転移者どうしの子どもという意味です。
「お前らも食えよ」
チャーリーはさっさと食べ始めてしまいました。みんなでいただきましょうよ。
「……二人ともご家族は来てないの? 」
おそるおそるエディーが二人に話しかけます。警戒が解けないのか、エディーの表情は固めです。怖がらせちゃいますよ。
「あ、うちは有給取れなかったんで」
もぐもぐと自分のお弁当を食べながらケン少年は言いました。
「二人とも会社員なんですよ。弟ちっちゃいからそっちの運動会優先だし。テッドは? 」
テッドというのはセオドアの愛称です。
「ボクは母が来てくれると言ってたんですけど、やっぱ忙しいって」
寂しげにうつむくセオドア少年。その様子に同情したのか、エディーの語気が柔らかくなります。
「こういうこと言うの失礼かもしれないけど、セオドアくんって、もしかしてオリヴァー・スミス男爵のお子さんかな。お父さんの本をよく読むんだよ」
「有名な方なんですか? 」
「あ、あの、そうです。父は植物学者をしていて。あと、テッドと呼んでください」
テッドは彼の父親の話ができて嬉しそうです。共通の話題を見つけたエディーとテッドはだんだんと打ち解け、楽しいランチタイムになりました。
テッドはもともとチャーリーと仲良くしたかったけれど、気の弱さから傍観者に徹していたそうです。担任が変わったことから、思い切ってチャーリーに謝罪をして、仲良くなったとのことです。
「正直なんもされなかったし顔も覚えてなかったから、謝られてびびった」
というのはチャーリーの憎まれ口ですが、それでもちょっと嬉しそう。クラスに味方ができたのは、救いになっているみたいです。テッドはチャーリーとケンが所属している武術研究会に入部し、そこで三人仲良く暴れているようです。
チャーリーの学校生活を垣間見ることができて、エディーは安心したようです。ケンとテッドとはすっかり仲良くなって、三人で武術研究会の部室を見に行ってしまいました。
「チャーリー、いま学校楽しいですか? 」
二人になったので思い切ってきいてみました。
「うん」
はぐらかされるかと予想していましたが、意外にもきっぱりと答えてくれました。
「あと学校で失敗しても、家で兄貴に愚痴ればいいやって、思えるようになったから」
チャーリーは空を見上げました。
「ありがとよ」
「貴方が勇気を出したから、貴方が負けなかったからですよ」
「……うん」
チャーリーと同じように空を見上げると、よく晴れた青い空が広がっていました。
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